2018年7月18日水曜日

音無しの滝





夫であった柏木が若くして亡くなった後、残された落葉の宮は母と二人寂しく暮らしていました。

その母が病に倒れ、病平癒の祈祷を受けるために、小野の山荘に二人で移りましたが、その地で母御息所は亡くなってしまいます。

愛する人の、相次ぐ死に、宮は涙にくれる日々を過ごしていました。その落葉の宮が手習のように書きつけた歌。

朝夕に泣く音を立つる小野山は絶えぬ涙や音無しの滝(夕霧の巻)



朝夕に流す私の涙が音無しの滝となって流れるのでしょうか、というような意味の歌です。

「小野」は比叡山の麓、大原から修学院一帯を指します。有名な歌枕でもある「音無しの滝」は今もあります。三千院の横を川沿いに10分ばかり登った所です。

私が訪れた日は、先だっての大雨の名残で水量豊かにしぶきを散らして流れ落ちていました。人気もなく静かで涼しい滝の下でひと時の清涼を味わってきました。

音無しの滝は源氏物語にもう一度登場しています。光源氏の、養女玉鬘に寄せる密かな恋心を形容したものです。

かくおぼしいたらぬことなく、いかでよからむことはと、おぼしあつかひたまへど、この音無しの滝こそ、うたていとほしく・・・・・(行幸の巻)


父親を装って馴れ馴れしく振舞う源氏の態度は、玉鬘にとっては大変悩ましく迷惑なものでした。