2019年10月16日水曜日

源氏物語の秋の花





紫式部は、植物に非常に関心を寄せていた、というより「花が好きだった」と思われます。
源氏物語には、非常に多くの植物が登場しています。
秋の花としては、撫子、菊が最も多く20回近く出てきます。次に多いのは、女郎花、朝顔。それ以外では萩とか藤袴、吾亦紅も出てくるのですが、吾亦紅は一回だけ、藤袴も2回だけとちょっとさびしいですね。


一昨年のブログでも、同じ本文を引用しましたが、もう一度。
匂宮が、世の人の愛でる女郎花や萩には興味を示さず、香のある菊と藤袴、吾亦紅を偏愛したという箇所です。
因みに吾亦紅には、香はないのですが、「吾木香」とも書くところから、「香」と結び付けたのでしょうね。

(匂宮は)秋は世の人のめづる女郎花、小牡鹿の妻にすめる萩の露にも、をさをさ御心移したまはず、老を忘るる菊に、おとろへゆく藤袴、ものげなきわれもかうなどは、いとすさまじき霜枯れのころほひまでおぼし捨てずなど、わざとめきて、香にめづる思ひをなむ、立てて好ましうおはしける。《匂兵部卿の巻》


紫式部は自宅の庭にはどんな草花を植えていたのだろうかと想像してみています。







2019年10月12日土曜日

明石君と龍胆


王朝時代の女性たちは、自由に野山を散歩することはできませんでした。
その分、お庭に植える草花には凝り、大切にしていたようです。

野分が吹くとその草花が心配で、気をもんだことが源氏物語にも描かれています。


野分、例の年よりもおどろおどろしく、空の色変わりて吹き出づ。花どものしをるるを、いとさしも思ひしまぬ人だに、あなわりなと思ひ騒がるるを、まして、(秋好中宮様は)草むらの露の玉の緒乱るるままに、御心まどひもしぬべくおぼしたり。暮れゆくままに、ものも見えず吹きまよはして、いとむくつけければ、御格子など参りぬるに、うしろめたくいみじと、花の上をおぼし嘆く。《野分の巻》 


秋の草花を愛し、庭に多くの美しい花を咲かせていた秋好中宮が、夜になって吹き荒れる風に心を痛めています。
どんな花を植えていたのでしょうね。女郎花や藤袴、萩、桔梗などでしょうか。

具体的な花の名前が出てくるのは、同じ野分の巻の明石の君の庭です。野分の翌日の朝、乱れた植栽を人々が手入れしています。

馴れたる下仕へどもぞ、草の中にまじりてありく。童女など、をかしき衵姿うちとけて、(明石君が)心とどめて取り分き植ゑたまふ龍胆、朝顔のはいまじれる籬も、みな散り乱れたるを、とかく引き出で尋ぬるなるべし。 


控えめで、常に謙虚であり続けた明石の君が、龍肝(りんどう)を特に愛して植えていたとあります。
いかにも明石の君にふさわしい花ではありませんか。当時の龍肝は、今の、園芸種のものとは違うもっと小さく地味な花だったと思われるので余計ぴったりです。