2018年5月26日土曜日

源氏物語の「卯の花の垣根」


ヤマボウシ


白い花の季節になりました。タチバナ、ヤマボウシ、卯の花(ウツギ)、ドクダミ、ホタルブクロ。クチナシも、もうすぐ咲きますね。

ドクダミ


これら白い花は夏の訪れを告げる花で、唱歌「夏は来ぬ」も~卯の花の匂う垣根にほととぎす早も来鳴きて~と始まっています。

源氏物語にも「卯の花の垣根」が登場しています。もちろん夏の人花散里の住む夏の庭です。(以下の本文は以前、『源氏物語に薔薇は咲いたか』で引用したのと一部重なっています。)
卯の花

八月にぞ、六条の院造り果ててわたりたまふ。(略)もとありける池山をも、便なき所なるをば崩しかへて、水のおもむき、山のおきてをあらためて、さまざまに、御方々の御願ひの心ばへを造らせたまへり。

北の東は、涼しげなる泉ありて、夏の蔭によれり。前近き前栽、呉竹、下風涼しかるべく、小高き森のやうなる木ども木深くおもしろく、山里めきて、卯の花の垣根ことさらにしわたして・・・・・(少女の巻)


光源氏は、新たに造営した六条院の庭を四季の庭とし、それぞれの庭の主となる女性の希望に合わせて庭を造ったと書かれています。

夏の庭は花散里の希望にそって作られたわけですが、そこには、卯の花の垣根が巡らされていました。
王朝時代の都人にとって、「卯の花の垣根」は田舎家の風情を感じさせるものだったようで、花散里はそれを好んだようです。

卯の花の垣根の一部

卯の花の垣根なんて今でもあるかしらと思って、探してみました。

私の住まいは少し歩けば「山里」めいて田畑もあるような地域なので。そうしたら、ありました!
大きな邸宅の南側一面が卯の花の生垣だったのです。これまで何度も通っていましたが、花の時期でなかったために気づかなかったのでした。ただ、白い花は全面に付いているわけではなく、部分的に群れ咲いていました。

卯の花

ちなみに卯の花にはいくつもの種類があるようです。別名空木(ウツギ)で、ヒメウツギ、タニウツギ、バイカウツギ、ノリウツギ・・・・・と実に多いようです。この季節近郊の山に行くと色々見かけます。

さて、花散里の庭の生垣はどのタイプの花をつけたのでしょうか。





2018年5月21日月曜日

中央公会堂での朗読会


5月20日、爽やかな初夏の中之島公園、晴れて美しい日になりました。
御来場くださった方有難うございました。


今回、私は「高瀬舟」の朗読をしましたが、これは実に破綻の無い作品で、読む度に森鴎外の作家としての能力の高さを感じます。
文章に無駄がなく、引きしまっているところが好きです。





2018年5月19日土曜日

蓬の宿の姫君




国宝源氏物語絵巻の中に、「蓬生の巻」の絵があります。光源氏が惟光に導かれて、蓬をかき分けて、道も消えた荒れた庭を進んでゆく場面です。

いみじうあはれに、かかるしげきなかに、何ごこちして過ぐしたまふらむ、今まで訪はざりけることよ、とわが御心の情なさもおぼし知らる。(略)惟光も、「さらにえ分けさせたまふまじき蓬の露けさになむはべる。露すこし払はせてなむ、入らせたまふべき」と聞こゆれば、

尋ねてもわれこそとはめ道もなく 深き蓬のもとの心を

とひとりごちて、なほ下りたまへば、御さきの露を、馬の鞭して払ひつつ入れたてまつる。雨そそきも、なほ秋の時雨めきてうちそそけば、「御傘さぶらふ。げに木の下露は、雨にまさりて」と聞こゆ。(蓬生の巻) 



絵巻の絵には、鞭で蓬をかき分ける惟光に導かれて、傘をさして歩み入る源氏が描かれています。季節は初夏、さぞかし草深い庭だったのでしょう。
この生い茂った蓬の奥の茅屋には、末摘花が、源氏の再訪を信じて待ち続けていたのでした。

姫君はさりともと待ち過ぐしたまへる心もしるく、うれしけれど、いとはづかしき御ありさまにて対面せむもいとつつましくおぼしたり。(蓬生の巻)


その人の存在を、長く忘れて放置していた源氏は、何年もの間、心変わりすることなく、ひたすら源氏を信じて待ち続けていた末摘花の心根に感動して、この後、彼女を、自邸近くに設けた別邸に住まわせたのでした。

葎の宿にひっそりと過ごす姫が、貴公子に見出されて玉の輿に乗るという話型にのっとれば、その姫は、類まれな美貌。ところが、この末摘花は、期待を裏切って、むしろ世にも稀な不美人、機転も利かない古風な姫君。それでも源氏は、その誠実な人柄を、高く評価して、生涯、面倒をみたのでした。
こういう所に紫式部の人生観がうかがえるのではないでしょうか。






2018年5月4日金曜日

朗読会のご案内

朗読グループ 「ミル」 の朗読ライヴにゲスト出演します。
初夏の中之島公園は美しく、お洒落なカフェもたくさんあります。
散策を兼ねて、お立ち寄りいただけたら幸いです。

大阪中央公会堂大会議室(京阪・地下鉄「淀屋橋」下車1番出口)

5月20日(日)午後2時から4時まで(開場1時40分)
入場無料
演目

おくの細道         宇治田啓次・三谷敦子・岸本久美子

お墓の下まで(宮部みゆき)  宇治田啓次・三谷敦子
高瀬舟(森鴎外)       岸本久美子
六十グラムの猫(向田邦子)  三谷敦子
洪庵のたいまつ(司馬遼太郎) 宇治田啓次
    
アルハンブラの思い出他    ギター演奏 森川恵介