2019年8月26日月曜日

Roudoku Duo 凛 朗読会のお知らせ

                              Photo てんどう


Roudoku Duo
岸本 久美子 磯﨑 敬子
ピアノ  角 香織
言葉の森の小径をゆく

―作品世界を朗読とピアノの響きにのせて― 


日時   2019年 1117日(日)
      10:2012:00 (開場1000

場所   メルパルク KYOTO 7F

   スタジオ ペガサス


【 演目 】

家霊
(岡本かの子作)
岸本久美子


角筈にて
(浅田次郎作)
磯﨑 敬子


ピアノ  角 香織


座席の都合がありますので、ご来場いただける方は
下記までご連絡ください。
Roudoku Duo凛 事務局】
08038413746

(メルパルク京都 JR京都駅すぐ)





2019年8月20日火曜日

桂の木陰


桂は今も身近な木で、よく見かけます。ハート型の愛らしい葉っぱをたくさん付けて夏には深い木陰を作ってくれます。



源氏物語の時代にも桂は人々に親しまれた木でした。
葵祭の時は冠などに葵の葉と桂の葉を飾る習わしがありましたし、また、月には桂の木が生えているとも信じられていました。
もちろん庭にも植えられていて、大きく広げた枝の下で王朝人も立ち話をしたりしたかもしれません。
ある晩、源氏の君が、通りがかりにふと立ち寄った昔の恋人の家にも桂の木がありました。

中川のほどおはし過ぐるに、ささやかなる家の、木立などよしばめるに、よく鳴る琴をあづまに調べて、掻きあはせ、にぎははしく弾きなすなり。御耳とまりて、門近なる所なれば、すこしさし出でて見入れたまへば、大きなる桂の木の追ひ風に、祭のころおぼし出でられて、そこはかとなくけはひをかしきを、ただ一目見たまひし宿なりと見たまふ。《花散里の巻》

 
この時は門の中に入って、女に声を掛けるのですが、長い無沙汰のせいか、女はわざと誰かわからないふりをして源氏の君の訪問を拒否します。源氏の君もいつも女性に歓迎されたというわけではないのです。

もう一つ庭の桂が出て来る場面をご紹介しましょう。
「玉鬘」という女性は六条院に源氏の娘ということで暮らしています、実は、彼女は、内大臣(かつての頭の中将)の娘なのです。

そのことが明らかにされた後、玉鬘の元へ、父大臣の使いとしてやってきた柏木青年。
そっと桂の木に隠れています。玉鬘が、実は自分と血のつながった姉であることを知らずに熱心に熱烈な恋文を出してきたという事情があり、ちょっと照れ臭いのです。


頭中将(柏木)、心を尽くしわびしことは、かき絶えにたるを、うちつけなりける御心かなと、人々はをかしがるに、殿(内大臣)の御使にておはしたり。なほもて出でず、忍びやかに御消息なども聞こえかはしたまひければ、月の明き夜、桂の蔭に隠れてものしたまへり。《藤袴の巻》




2019年8月1日木曜日

「撫子」のその後

この夏もあちこちに撫子の花が咲きました。

帚木の巻で「撫子」として登場した玉鬘はその後、源氏の君の元に引き取られ、源氏の邸、六条院の[花]として、多くの貴公子たちを惹きつけています。
(玉鬘は、実は頭中将の娘なのですが、世間には、源氏の娘ということにしてあります。)

庭には、美しい撫子の花を多く咲かせ、花々の奥にいる玉鬘を連想させようという源氏の君の心組みです。

撫子は小さいけれど群れて咲きますし、色鮮やかな華やかなものですから、ぱっと明るい玉鬘という女性をイメージさせるには適しています。

御前に、乱れがはしき前栽なども植えさせたまはず、撫子の色をととのへたる、唐の大和の、籬いとなつかしく結ひなして、咲き乱れたる夕ばえいみじく見ゆ。皆立ち寄りて、心のままにも折り取らぬを飽かず思ひつつやすらふ。《常夏の巻》


咲き乱れる撫子を手折ることができない・・・・つまり玉鬘を手に入れることができないのを残念に思いながら、貴公子たちは庭先をうろうろ歩いているのでした。
その中には、実は血のつながる兄弟である、ということを知らない柏木なども混じっています。

美しいと評判の女性玉鬘に憧れ、心を尽くす若者たちの姿を見て、ほくそえむ光源氏は、かなり嫌なおじさんの役を演じています。