2018年1月25日木曜日

光源氏の住吉詣で






―――神社の前を通れば思わず手を合わせしまう。新年には必ず初詣をしなくては気が済まない。少額であっても、やはりお賽銭を入れなくてはと思う―――


これをお読みの皆さまも多分同じでいらっしゃるのではないでしょうか。
もっとも、初詣は江戸時代から始まったものらしく、源氏物語には出てきません。

王朝時代の人々は神仏に恃む思いが非常に強く、源氏物語を始め、どの物語、日記などにも社寺にお参り、祈願する場面が多く登場します。旅に出る時も土地土地の神様に捧げるための幣袋(紙や布を小さく切ったものを詰めた袋)を持参しました。

源氏物語で、特に大々的に描かれているのが住吉詣です。光源氏は須磨明石から召還されて、京に帰り咲いた翌年に、願果たしの御礼参りをし、その後約二十年後、孫が東宮の位に着いた時、住吉明神に掛けた願がすべて叶ったとして、改めて盛大なお礼まいりをしています。
この当時、住吉神宮は海に面していました。今は埋め立てられて、すっかり海から遠くなりましたが。
すみません。これは住吉ではなく山口県の長門海岸です

この時の、光源氏の住吉詣は、高級官僚のほぼ全員、神楽奏者12人、舞人10人と、お付きの人々。紫の上や明石の君も引き連れてのお参りでしたから、馬や牛車を延々と連ねた大変な行列だったと思われます。

夜一夜遊び明かしたまふ。二十日の月はるかに澄みて、海の面おもしろく見えわたるに、霜のいとこちたく置きて、松原も色まがひて、よろづのことそぞろ寒く、おもしろさもあはれさも立ち添ひたり。対の上(紫の上)、常の垣根のうちながら、時々につけてこそ、興ある朝夕の遊びに、耳古り目馴れたまひけれ、御門より外の物見、をさをさしたまはず、ましてかく都のほかのありきは、まだならひたまはねば、めづらしくをかしくおぼさる。(略)ほのぼの明けゆくに、霜はいよいよ深くて、本末もたどたどしきまで、酔い過ぎにたる神楽おもてどもの、おのが顔をば知らで、おもしろきことに心はしみて、庭燎も影しめりたるに、なほ「万歳、万歳」と、榊葉を取り返しつつ祝ひきこゆる御世の末思ひやるぞいとどしきや。(若菜下の巻)
 

北白川神宮の大幣のアップ
榊に紙と一緒に麻苧をつけたもの
夜を徹して神楽を奏し、舞を奉納したことがわかります。また、紫の上は、この時、多分生涯に一度だけ、京の外の景色を見たと思われます。海も初めて見たのではないでしょうか。 

新年を迎えた神々しい神域に足を踏み入れると、何となく厳粛な気持ちになります。


神様にお願いし、縋る気持ちは千年まえの日本人も現代人も基本的には変わらないかもしれないと思いました。








<朗読会>声と響き 木霊する源氏物語
2018年3月24日(土)朗読会を開催します。
皆さまのご来場をお待ちしております。

よりお申し込み画面にお進みください。参加費のお支払い(高校生以下は不要)で、お申し込みの受付が完了いたします。
チケットの提示は不要です。当日は、受付にてお名前をお伝えください。

eメールからもお申込みいただけます。
kumiko.kishimoto.pro@gmail.com」宛に
・お名前(フリガナ)
・eメール
・ご住所
・電話番号
・お申込数 大人(1500円)__枚 高校生以下(無料)__枚
・合計金額
 をお送りください。

お申込後、以下の口座にお振込ください。

  京都銀行 修学院支店 普通口座 3299189 キシモトクミコ
振込手数料はご負担をお願い致します。


【お問い合せ】 岸本久美子 公演会事務局
電話 075-701-0900 
eメール kumiko.kishimoto.pro@gmail.com



2018年1月15日月曜日

源氏物語の雪の朝


2018.1.14高野川
今朝、この冬初めて積雪を見ました。京都では一冬に何度かは雪の積もる日がありますが、王朝時代は今よりはもっと雪の日が多かったようです。
雪の朝で印象的な場面を二つご紹介したいと思います。
一つは光源氏17歳のころ、末摘花の元で一夜を過ごして、迎えた朝です。

からうして明けぬるけしきなれば、(源氏は)格子手づからあげたまひて、前の前栽の雪を見たまふ。(略)まだほの暗けれど、雪の光に(源氏が)いとどきよらに若う見えたまふを、老人ども笑みさかえて見たてまつる。(略)(源氏は末摘花を)見ぬやうにて、外のかたをながめたまへれど、後目はただならず。いかにぞ、うちとけまさりのいささかもあらばうれしからむとおぼすも、あながちなる御心なりや。まづ居丈の高う、を背長に見えたまふに、さればよと、胸つぶれぬ。うちつぎて、あなかたはと見ゆるものは、御鼻なりけり。ふと目ぞとまる。普賢菩薩の乗物とおぼゆ。あさましう高うのびらかに、先のかたすこし垂りて色づきたること、ことのほかにうたてあり。色は雪はづかしく白うて真青に、額つきこよなうはれたるに、なほ下がちなる面やうは、おほかたおどろおどろしう長きなるべし。痩せたまへること、いとほしげにさらぼひて、肩のほどなどは、いたげなるまで衣の上まで見ゆ。何に残りなう見あらはしつらむと思ふものから、めづらしきさまのしたれば、さすがにうち見やられたまふ。(末摘花) 



まだ夜明け前の薄暗い時間ながら、雪明かりで源氏は末摘花の姿をしっかり見てしまったのでした。これまでに知っているどの女性とも違う姿にショックを受けつつも目を逸らせないでいるのでした。鼻が「普賢菩薩の乗物」つまり「白象」のようだとはあんまりな言いようですが。



もう一つの雪の朝は、源氏40歳の頃、女三宮の降嫁を受け、しきたりに従って三晩続けて彼女の元に通ったその三日目の夜明けです。紫の上のことを夢に見て、まだ夜明けには間のある早い時間に源氏は女三宮のもとを引き上げて帰ってきます。

 雪は所々消え残りたるが、いと白き庭の、ふとけぢめ見えわかれぬほどなるに、「なほ残れる雪」と忍びやかに口ずさびたまひつつ、御格子うちたたきたまふも、久しくかかることなかりつるならひに、人々も空寝をしつつ、やや待たせたてまつりて、引きあげたり。「こよなく久しかりつるに、身も冷えにけるは。・・・・」(若菜上) 

紫の上の女房たちは、源氏に意地悪してわざとなかなか格子を上げず、源氏は雪の庭を見ながら震えています。源氏は、紫の上が亡くなった後、この朝のことを思い出し、濡れた袖を隠した彼女のいじらしさを思います。


入道の宮(女三宮)のわたり始めたまへりしほど、そのをりはしも、色にはさらに出だしたまはざりしかど、ことにふれつつ、あぢきなのわざやと、思ひたまへりしけしきのあはれなりしなかにも、雪降りたりし暁に立ちやすらひて、わが身も冷え入るやうにおぼえて、空のけしきはげしかりしに、いとなつかしうおいらかなるものから、袖のいたく泣き濡らしたまへりけるをひき隠して、せめてまぎらはしたまへりしほどの用意などを、夜もすがら、夢にても、またはいかならむ世にか、とおぼし続けらる。曙にしも、曹司におるる女房なるべし、「いみじうも積りにける雪かな」と言ふを聞きつけたまへる、ただそのをりのここちするに、御かたはらのさびしきも、いふかたなく悲し。(幻)




「大変な雪だこと」などと言う女房の言葉はあの朝と同じ。同じような雪の朝だけれども、隣にいたあの人はいない・・・・・・。自然の営みは繰り返されるけれど、人は消えてゆく・・・・・・。
源氏は、夢ででも逢いたいと紫の上を恋い偲ぶのでした。







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2018年1月13日土曜日

「源氏物語」特別講座のお知らせ       Horikawa Community College


HCC:Horikawa Community College

「コミュニティカレッジ」は堀川高校が提案する新しい生涯学習の形です。
先進的な施設設備を活用して,本校はもとより京都市および周辺の人的・物的学習資源を生徒・市民に還元する場であるとともに,学ぶ楽しさを通して交流する場京都市立高等学校21世紀構想委員会の提言を受けて堀川高校が企画・提供します。


今年度の特別講座のテーマは「夕霧――この生真面目で不器用な男」。


源氏物語全編を通して一番長く登場しているのは、光源氏の息子夕霧です。その誕生から幼年期、青年期、熟年期、老年期と、0歳から53歳まで、巻で言えば、葵の巻から宇治十帖蜻蛉の巻まで、間をおきながらも、ずっと登場します。
あの【光源氏】の息子という重圧を彼はどのように受け止めて生きたのでしょうか。時間の中で、次第に変化してゆく彼の姿を追ってみたいと思います。

日時/ 2018年3月3日() 午後2:00~4:00
場所/ 京都市立堀川高等学校 授業研究室(北館2階)
演題/ 夕霧――この生真面目で不器用な男
講師/ 岸本久美子(堀川高校 非常勤講師)

 ◎申込方法: FAXEメール・Webでお申し込みください。

 ▼申込Webサイト: https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSclLpwne4jXDbe6CqX6AJwGvPz39mnpTh9jlWttJjrT8IGb9Q/viewform?c=0&w=1



(電話でのお申し込みは受け付けられません。)
FAXEメールでお申込みの場合は,
講座名 ②住所 ③氏名 ④電話番号(FAX番号)をご記入ください。

申込先: 堀川高校学務部
FAX: 075-211-8975

申込締切: 201831日(木)     

上履きをご持参ください。
個人情報保護の観点から,いただいた個人情報はこの講座以外には使用しません。









2018年1月4日木曜日

光源氏の新春


2014夏 南アルプスから臨んだ夜明けの富士山

王朝時代のお正月は陰暦によるものなので、今の暦で言えば、2月の半ばほど。一番寒い時期が終わり、そろそろ梅が綻び始める時期でした。
源氏物語には新春が描かれた場面がいくつもありますが、光源氏の行動はその時期によって、色々です。まず、新築なった大邸宅六条院の、いかにもめでたい初春の描写を少し引用しましょう。源氏36歳の新春です。

年立ちかへる朝の空のけしき、名残なく曇らぬうららけさには、数ならぬ垣根のうちだに、雪間の草若やかに色づきはじめ、いつしかとけしきだつ霞に、木の芽もうちけぶり、おのづから人の心ものびらかにぞ見ゆるかし。まして、いとど玉を敷ける御前は、庭よりはじめ見所多く、磨きましたまへる御方々のありさま、まねびたてむも言の葉たるまじくなむ。春の御殿の御前、とりわきて、梅の香も御簾のうちの匂ひに吹きまがひて、生ける仏の御国とおぼゆ。(初音の巻) 


このあと、源氏と紫の上は新春を寿ぐ歌を詠みかわし、源氏は花散里、玉鬘、明石の君と順に女君の元を訪れます。満ち足りたお正月でした。

この年を遡ること10余年、源氏23歳の正月、彼は宮中に参賀した後で、前年に亡くなった妻葵上の実家、左大臣家に挨拶におもむきました。

朔日(ついたち)の日は、例の、院に参りたまひてぞ、内裏、春宮などにも参りたまふ。それより大殿(左大臣家)にまかでたまへり。(略)御しつらひなどもかはらず、御衣掛の御装束など、例のようにし掛けられたるに、女のがならばぬこそ、栄なくさうざうしけれ。(略)かならず今日たてまつるべきとおぼしける御下襲は、色も織りざまも、世の常ならず、心ことなるを、かひなくやはとて、着かへたまふ。来ざらましかば、くちをしうおぼさましと、心苦し。(葵の巻) 


左大臣家では、娘亡きあとも、婿のための新しい装束を特別に仕立てて待っていたのでした。すぐにその衣裳に着かえて、「来なかったらどれほどお気の毒だったことか」と思いつつ、舅、姑に優しい慰めの言葉を掛ける源氏は本当に良い婿です。



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