2019年11月25日月曜日

薫の通った落葉の道




京から宇治へは、木幡の山を越えてゆかねばなりません。
薫は、宇治に住む叔父八の宮を人生の師と仰ぎ、しばしば宇治へ通いました。
ある時、宮を訪ねてゆくと、たまたま宮は留守で、二人の娘、大君と中君を垣間見する機会を得たのです。
山路を馬で越えてゆく場面をご紹介しましょう。


中将の君(薫)、久しく参らぬかなと、思ひ出できこえたまひけるままに、有明の月の、まだ夜深くさし出づるほどに出で立ちて、いと忍びて、御供に人などもなくて、やつれておはしけり。川のこなたなれば、船などもわづらはで、御馬にてなりけり。入りもてゆくままに霧りふたがりて、道も見えぬ繁き野中を分けたまふに、いと荒ましき風のきほひに、ほろほろと落ち乱るる木の葉の露の散りかかるも、いと冷ややかに、人やりならずいたく濡れたまひぬ。かかるありきなどもをさをさならひたまはぬここちに、心細くもをかしくもおぼされけり。《橋姫の巻》 


夜中に、暗い山道を落葉を踏みしだきながら越えてゆくのです。
身分柄、人目につかぬように、数名の御供だけを連れて、馬で出かけたとあります。
なぜか王朝人は夜行性です。いつ寝るのかしらと思ったりします。

この時も、薫が宇治の山荘についてみると、姫君たちは起きていて、二人で月を見ながら、琴と琵琶を弾いているところでした。
宮は不在と知った薫は、良い機会だとばかりに、姉妹の姿を物陰からしっかり見たのでした。



これがきっかけになって、薫の大君への厄介な恋がはじまったのでした。