2018年12月25日火曜日

源氏物語の柑子(みかん)



子供の頃、風邪をひいたりすると、リンゴをすりおろしたものや、みかんを絞ったものを与えられました。

源氏物語の中では、柑子は病重い人もかろうじて口にすることができるものとして出てきます。

つまり、柑子さえ食べられないということになればそれはもう回復の見込みがないということになるわけです。
 当時のみかんは今のものと比べて、おそらく小さく多少とも酸っぱかったことでしょう。




一つは藤壺の宮の場合、もう一つは柏木の場合です。いずれも、柑子すら口にしなくなったとあり、その後やがて亡くなっています。

(源氏の君は)、近き御几帳のもとに寄りて、(藤壺の宮の)御ありさまなど、さるべき人々に問ひ聞きたまへば、親しき限りさぶらひて、こまかに聞こゆ。「月ごろなやませたまふ御ここちに、御行ひを時の間もたゆませたまはずせさせたまふ積りの、いとどいたうくづほれさせたまへるに、このころとなりては、柑子などをだに、触れさせたまはずなりにたれば、頼みどころなくならせたまひにたること」と、泣き嘆く人々多かり。≪薄雲の巻≫


この後すぐに、藤壺の宮は、涙ながらに語りかける源氏の君の言葉を耳にしながら燈火の消えるように静かに息をひきとってしまわれました。


もう一つの柏木の場合。柏木は、源氏の妻である女三宮とあやまちを犯し、それを知った源氏に一睨みされたことがきっかけで、病の床に就きました。
日ごとに病は重くなり、療養のため、妻のもとを去って父大臣の邸に移りました。

大殿(父大臣)に待ち受けきこえたまひて、よろづに騒ぎたまふ。さるは、たちまちにおどろおどろしき御ここちのさまにもあらず、月ごろものなどをさらに参らざりけるにいとどはかなき柑子などをだに触れたまはず、ただ、やうやうものに引き入るるやうに見えたまふ。≪若菜下の巻≫ 

この後、柏木の病は回復することなく、衰弱が進み、やがて「泡の消えるように」亡くなります。









<<朗読会を開催します>>
~声と響き 木霊する源氏物語~   朗読と唄で織りなす物語[第二弾]
【第一部 明石の君の物語/第二部 六条御息所の物語】

【日時】 2019年4月21日(日)14:00 開演
           (13:00 開場/15:30 閉演)
【会場】 京都堀川音楽高等学校 音楽ホール
【入場料】 前売券1,500円/当日券2,000円/高校生以下無料/全席自由席
 「チケットぴあ」でご購入  Pコード「490-943」
     ※チケットのご購入後にキャンセルすることはできません。
【前売券 販売期限】 2018年12月1日(土)~2019年4月20日(土)まで
 ▶詳しくはコチラ

2018年12月9日日曜日

「源氏物語」特別講座のお知らせ


「コミュニティカレッジ」は京都市立堀川高等学校が提案する新しい生涯学習の形です。

先進的な施設設備を活用して、堀川高校はもとより京都市および周辺の人的・物的学習資源を生徒・市民に還元する場であるとともに、学ぶ楽しさを通して交流する場―京都市立高等学校21世紀構想委員会の提言を受けて堀川高校が企画・提供します。


 柏木は名門の御曹司。昨年とりあげた夕霧の親友でもあり、従兄にもあたります。
 さらに、光源氏が、その才能を愛し、可愛がっていた甥でもあります。
 容姿にも才能にも恵まれ、将来を約束されていた青年がなぜ若くして自滅しなくてはならなかったのでしょうか。
 何が彼に悲劇を招き寄せたのかー柏木の思考と行動の跡をたどってみましょう。

日時/ 2019年3月9日(土) 午後2:00~4:00
場所/ 京都市立堀川高等学校 授業研究室(北館2階)
演題/ 「柏木――悲劇の貴公子」
講師/ 岸本 久美子(堀川高校 非常勤講師)

◎申込方法: FAX・Eメール・Webでお申し込みください。
 ※電話でのお申し込みは受け付けられません。

<<FAX・Eメールでお申込みの場合>>
FAX: 075-211-8975
Eメール: c_college@horikawa.edu.city.kyoto.jp
①講座名 ②住所 ③氏名 ④電話番号(FAX番号)をご記入ください。

<<Webでお申込みの場合>>
Web: http://www.edu.city.kyoto.jp/hp/horikawa/

◎申込締切: 2019年3月7日(木)  
                     
※上履きをご持参ください。
※個人情報保護の観点から、いただいた個人情報はこの講座以外には使用しません。

2018年12月5日水曜日

匂宮、宇治の紅葉狩



今年の紅葉は期待できないと言われていましたが、それでも、樹々は、赤く黄色くあるいは橙色に、それぞれの秋の衣裳を纏いました。
春の桜も素晴らしいけれど、秋の紅葉の輝きは、この国に生きていることの幸せをより強く感じさせてくれるのではないでしょうか。

王朝人は、季節の移り変わりにまことに敏感でした。衣裳の色目はもちろん、部屋にくゆらせる薫香にも、季節感を配しました。

とりわけ、春と秋は彼らの好んだ季節で、春の花と秋の紅葉を現代人の何倍も何倍も楽しみ、味わいつくそうとしたように思います。

宇治十帖には宇治川の紅葉狩りが描かれています。
匂宮が宇治に住む愛人中君に逢いに行く口実に、紅葉狩りを計画したのです。夜になったらこっそり抜け出して、対岸に住む中君の元を訪ねる予定でした。ところが、後を追って大勢の貴族たちがやってきて、大宴会となり、抜け出すことは叶いませんでした。

十月朔日ころ、網代もをかしきほどならむと、そそのかし聞こえたまひて、紅葉御覧ずべく申し定めたまふ。


それを知った中君方では邸を清め、対岸から匂宮一行の様子を眺め、お出でを心待ちにしています
嵐山の紅葉


  船にてのぼりくだり、おもしろく遊びたまふも聞こゆ。ほのぼのありさま見ゆるを、そなたに立ち出でて、若き人々見たてまつる。正身(匂宮本人)の御ありさまは、それと見わかねども、紅葉を葺きたる船の飾りの、錦と見ゆるに、声々吹き出づるものの音ども、風につきておどろおどろしきまでおぼゆ。(略)たそかれ時に、御船さし寄せて遊びつつ文作りたまふ。紅葉を濃く薄くかざして、海仙楽というものを吹きて、おのおの心ゆきたるけしきなるに、宮はあふみの海のここちして、遠方人の恨みいかにとのみ、御心そらなり。《総角の巻》 




これも宇治ではなく嵐山

匂宮たちの乗る船は屋根に紅葉が敷き詰めてあり、人々は頭に紅葉を飾って、笛を吹いたり、詩を詠んだりしています。なんと風流な遊び!人々は楽しんでいますが、匂宮は中君のことを思って気が気ではありませんでした。






<<朗読会を開催します>>
~声と響き 木霊する源氏物語~   朗読と唄で織りなす物語[第二弾]
【第一部 明石の君の物語/第二部 六条御息所の物語】

【日時】 2019年4月21日(日)14:00 開演
           (13:00 開場/15:30 閉演)
【会場】 京都堀川音楽高等学校 音楽ホール
【入場料】 前売券1,500円/当日券2,000円/高校生以下無料/全席自由席
 「チケットぴあ」でご購入  Pコード「490-943」
     ※チケットのご購入後にキャンセルすることはできません。
【前売券 販売期限】 2018年12月1日(土)~2019年4月20日(土)まで
 ▶詳しくはコチラ



2018年11月29日木曜日

声と響き 木霊する源氏物語 朗読と唄で織りなす物語[第二弾]を4月21日(日)に開催いたします。




声と響き 木霊する源氏物語
朗読と唄で織りなす物語[第二弾]

【第一部 明石の君の物語/第二部 六条御息所の物語】

― 忍耐に忍耐を重ねながらも、なだらかな心を保って最後に幸せを手に入れた明石の君 ―

― 高貴な美しさの裏に隠した、狂おしいばかりの情熱を制御しきれなかった六条御息所 ―

好評であった前回に引き続いて、古典の世界を声の響きのうちに呼び寄せようとする試み第二弾をお届けします。前回と同じく源氏物語の世界を、語りと朗読、唄で構成しています。今回は女君の中から、対照的な存在ともいえるふたり「明石の君」と「六条御息所」をとりあげてみました。




【日時】 2019年4月21日(日)14:00 開演 (13:00 開場/15:30 閉演)

【会場】 京都堀川音楽高等学校 音楽ホール
京都市中京区油小路通御池押油小路町238―1
市営地下鉄東西線 二条城前駅 下車 2番出口 徒歩2分/市バス 堀川御池 下車 徒歩2分
*御池通側の南門(グランド入口)からお入りください。
*駐車場、駐輪場はありません。公共の交通機関をご利用ください。



【共催】 京都市教育委員会

【後援】 古典の日推進委員会
【前売券 販売期限】 2018年12月1日(土)~2019年4月20日(土)まで *ファックス、eメールでのご購入は4月15日(月)まで
【入場料】 前売券1,500円/当日券2,000円/高校生以下無料/全席自由席
【お問い合せ】 岸本久美子 公演会事務局
電話 075-701-0900 eメール kumiko.kishimoto.pro@gmail.com
【個人情報のお取り扱い】 お申し込みに際し、みなさまよりご提供いただきました情報は、個人情報保護法に則り、公演会事務局にて適切に管理いたします。
【チケットのお取り扱い】 チケットのご購入後にキャンセルすることはできません。

▶「チケットぴあ」でご購入 (高校生以下の方は、ファックスまたはeメールにてお申し込みください)

*セブン-イレブン、チケットぴあ各店舗での直接のご購入
(Pコード「490-943」)がお得です。
詳しくは「 http://t.pia.jp/guide/retail.jsp 」にアクセスしてください。

▶「ファックス」でご購入・・・ファックス 075-701-0900

▶「eメール」でご購入・・・eメール kumiko.kishimoto.pro@gmail.com
*ファックスまたはeメールに、お名前(漢字、フリガナ)、eメールアドレス、郵便番号、ご住所、電話番号、お申し込み数(前売券1,500円  枚、高校生以下(無料)  枚)、合計金額をご記入の上、件名「声と響き 木霊する源氏物語 申し込み」にてご送信後、以下の口座にお振り込みください。ご入金の確認後、チケットを郵送いたします。(高校生以下の方は、お振り込みは不要です)

お振込先 京都銀行 修学院支店 普通口座3299189 キシモトクミコ

(振込手数料はご負担をお願いいたします)












2018年11月15日木曜日

お土産には紅葉の枝を



今年も紅葉の季節がやってきました。錦秋と言う言葉がありますが、本当に秋は錦。
目に入る風景が明るい黄や茜に変わって、あー秋が来たなぁと時間の流れを感じます。



王朝の貴族たちは、四季の移ろい、自然の風物を愛しました。けれども、実際に戸外を歩きまわることなど女君にはできないことでした。邸の中から、お庭を眺めて草木を楽しむのが精一杯だったことでしょう。そこで、山の紅葉は立派なお土産となりえました。

源氏物語でも、光源氏が、しばらく籠っていた山寺から、藤壺に紅葉の枝を持ち帰っています。

結び文付けてみました

山づとに持たせたまへりし紅葉、御前のに御覧じくらぶれば、ことに染めましける露の心も見過ぐしがたう、おぼつかなさも、人わろきまでおぼえたまへば、(源氏の君は)ただおほかたにて(藤壺の)宮に参らせたまふ。(略)げにいみじき枝どもなれば、(藤壺の宮は)御目とまるに、例のいささかなるものありけり。人々見たてまつるに、御顔の色もうつろひて、なほかかる心の絶えたまはぬこそ、いとうとましけれ、(略)人もあやしと見るらむかしと、心づきなくおぼされて、瓶にささせて、廂の柱のもとにおしやらせたまひつ。《賢木の巻》


素晴らしい紅葉の枝だったので藤壺は喜んだのですが、よく見ると枝に何やら結び文らしきものがあったのです。二人の間は禁断の恋。藤壺は、源氏の危険な行為に、青ざめ、一旦は手にとった枝を、瓶に挿させて遠ざけたのでした。

紫式部の実も綺麗

もう一か所、薫が、正室の女二宮への土産に、宇治から紅葉を持ち帰った場面もご紹介しておきましょう。

暗うなれば出でたまふ。下草のをかしき花ども、紅葉など折らせたまひて、宮に御覧ぜさせたまふ。かひなからずおはしぬべけれど、かしこまり置きたるさまにて、いたうも馴れきこえたまはずぞあめる。《東屋の巻》



帝から特に許されて妻とした女二宮。薫の山土産を喜んでくれたと思うけれども、身分高く慎み深い妻は、「まあ嬉しい」と喜びをあらわにはしてはくれません。薫はまだこの宮にどうも親しめないでいます。

さて、これから紅葉の楽しめる季節。山でも野原でも自由に歩き回れる時代に生をうけたことに感謝しつつ、秋を楽しみたいものです。






<<予告>>朗読会 第二弾 日程決定!

 【声と響き 木霊する源氏物語】Vol.2
      朗読 岸本久美子 唄 上野洋子
 【日時】 2019年4月21日(日)14:00 開演
 【会場】 京都堀川音楽高等学校 音楽ホール

 詳しくは後ほどお知らせいたします。





2018年10月29日月曜日

栗の実落ちるころ:王朝人も食べた栗






源氏物語には、一回だけ栗を食べる場面が出てきます。
宇治十帖で、薫が浮舟を覗き見する場面です。薫はこの時初めて浮舟を見ました。
まず、車から降りる姿を見て、その後は、隣の部屋の襖の穴から覗いています。
栗を食べているのは浮舟ではなく、侍女たちです。御主人様の浮舟は、疲れて横になったまま起き上がろうとしないので、侍女たちが勝手にむしゃむしゃ食べ始めました。

この時、浮舟の美しさに見とれて、じっと覗き続けた薫は、腰が痛くなりました。




(浮舟は)扇をつとさし隠れたれば、顔は見えぬほど心もとなくて、胸うちつぶれつつ見たまふ。(略)くだもの取り寄せなどして、「ものけたまはる。これ」など(侍女が浮舟を)起こせど、起きねば、二人して、栗などやうのものにや、ほろほろと食うも、聞き知らぬここちには、かたはらいたくてしぞきたまへど、またゆかしくなりつつ、なほ立ち寄り見たまふ。《宿木の巻》



ここで侍女たちが、ほろほろと音をたてて食べているのはどうやら干して乾燥させた栗のようです。季節が陰暦の4月、今の暦で言えば、5月か6月なので、去年の栗だと思われます。

ところで、源氏物語の登場人物はよく「くだもの」を食べます。お酒のつまみにも「くだもの」が出てきます。これはいわゆるフルーツとは限りません。上の場面でも栗が「くだもの」とされています。木の実一般や柿の実などをさしたものと思われます。自然にとれるこれらのものは貴重な食糧だったのでしょうね。


最近は栗の木もあまり見なくなって、お店で買うしかなくなりました。わがやの近くに一本だけ栗の木がありますが、実はあまり大きくなりません。











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 【声と響き 木霊する源氏物語】Vol.2
      朗読 岸本久美子 唄 上野洋子
 【日時】 2019年4月21日(日)14:00 開演
 【会場】 京都堀川音楽高等学校 音楽ホール

 詳しくは後ほどお知らせいたします。










2018年10月10日水曜日

荻の上風吹く頃



荻(おぎ)と萩(はぎ)の違いははっきりしていますが、荻(おぎ)と薄(すすき)の違いがわからず、ずっと悩んでいました。源氏物語には両方とも登場します。

薄は「ひとむら薄」と出てくる場合が多く、荻はなにかを結わえ付けていたりします。
ススキは風にそよぎ、オギはその上を風が吹きすぎてゆくといった表現が多いようです。
   
最近、やっと、ススキとオギのみわけが付くようになりました。(なったつもりです。写真 間違っていたらごめんなさい)
白く蓬けると違いが良くわかります。オギは猫の毛みたいにフワフワしていて、ススキはちょっとちくっとします。オギのほうが毛が長いのです。あとは生え方が違います。一塊になって生えるのはススキ、列になって生えるのがオギです。



源氏物語には、軒端の荻という女性が登場します。これは、光源氏が、空蝉という人妻と契るべく忍び込んだ寝室に寝ていた娘。源氏の君は、人違いと知りながら、ちゃっかりその若い娘と一夜を過ごします。その後は知らん顔でやりすごしたのですが、新しく男を通わすようになったと聞いて、文を送ります。

ほのかにも軒端の荻をむすばずは露のかことをなににかけまし

(軒端の荻は)心憂しと思へど、かくおぼしいでたるもさすがにて、御返り、口ときばかりをかことにて取らす。

ほのめかす風につけても下荻のなかばは霜にむすぼほれつつ《夕顔の巻》 

源氏の歌は、「あなたとは一夜の契りを結んだ仲だから、他の男を通わすことに、ちょっと怨み言を言う資格がありますよ。」といった意味です。「荻を結ぶ」とは契りをかわすことを意味しています。軒端の荻は、源氏から何の音沙汰もないことを辛く思っていたので、思い出してもらえたことを喜んですぐにお返事しています。
 この歌から彼女は軒端の荻と呼ばれるようになりました。

ススキは株になって生えますが、オギは横に並びます


もうひとつ、荻の登場する場面をご紹介しましょう。源氏の君が野分の後で六条院の女君たちを見舞って回る所です。明石の君の住む区画を訪問してみると、明石の君は琴を弾いています。源氏の君の訪れに気づいた明石の君は素早く衣裳を整えてお迎えしますが、源氏の君は風見舞いの挨拶だけをして、ちょっと腰かけただけで帰ってしまいました。

端のかたについゐたまひて、風の騒ぎばかりをとぶらひたまひて、つれなく帰りたまふ、心やましげなり。

おほかたに荻の葉過ぐる風の音も憂き身ひとつにしむここちして

とひとりごちけり。《野分の巻》 


もうすこしゆっくりしていって頂きたかったのに、荻の葉を過ぎる風のように私のところを過ぎて行かれた、という明石の君の満たされない思いがせつなく感じられます。











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 【声と響き 木霊する源氏物語】Vol.2
      朗読 岸本久美子 唄 上野洋子
 【日時】 2019年4月21日(日)14:00 開演
 【会場】 京都堀川音楽高等学校 音楽ホール

 詳しくは後ほどお知らせいたします。








2018年10月1日月曜日

源氏物語にも登場する台風


元々、京都は滅多に台風の来ない土地柄ですが、今年は当たり年。
21号襲来の折には市内あちこちで大木が倒れたり折れたりして驚きました。屋根瓦を飛ばされた家も多数あり、いまだにブルーシートがあちらこちらで目につきます。

大木が三本倒れている

王朝時代にも、ごくまれに、大きな台風が京を襲うことがあったようです。
源氏物語には、まさにそれそのものの「野分(台風のこと)」という巻があります。

光源氏の息子夕霧は、台風の吹き荒れ始めた頃、一人暮らしの祖母を気遣って、泊まりに行きます。

宮(祖母の大宮)、いとうれしう、たのもしと待ちうけたまひて、「ここらの齢に、まだかく騒がしき野分にこそあはざりつれ」と、ただわななきにわななきたまふ。大きなる木の枝などの折るる音も、いとうたてあり。御殿の瓦さへ残るまじく吹き散らすに、「かくてものしたまへること」とかつはのたまふ。


宝ヶ池公園・折れた木で道が塞がれている


木の枝が折れたり、瓦が吹き飛んだりしています。「長く生きて来たけれど、こんな激しい台風は初めてだ」と恐ろしさに震えながら大宮が言っています。そして、こんな危ない中をよく来てくれたこと、 夕霧の来訪を喜びました。


この夜一晩、台風は吹き荒れ、朝はすっかり風もやみました。

勤勉な夕霧は、祖母の所から、まず、養母の花散里の舘に被害状況を見に行き、壊れた所の修理を指示しておいてから、その後、父光源氏の舘、南の御殿へも台風見舞いに行きます。

南の御殿に参りたまへれば、まだ御格子も参らず。おはしますに当れる高欄に押しかかりて見わたせば、山の木どもも吹きなびかして、枝ども多く折れ伏したり。草むらはさらにもいはず、檜皮、瓦、所々の立蔀、透垣などやうのもの乱りがはし。日のわづかにさし出でたるに、愁へ顔なる庭に露きらきらとして・・・・。


台風の過ぎたあと、築山の木々は折れ、草はなぎ伏せられ、屋根の檜皮や瓦が吹き飛ばされて落ちている。そして、垣根や塀は傾いたり倒れたりしている・・・・・そこに台風一過の明るい太陽が顔を出して庭の草の露がきらきら輝く・・・・・まったく今と同じです。


根から倒れてしまった木







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 【声と響き 木霊する源氏物語】Vol.2
      朗読 岸本久美子 唄 上野洋子
 【日時】 2019年4月21日(日)14:00 開演
 【会場】 京都堀川音楽高等学校 音楽ホール

 詳しくは後ほどお知らせいたします。

2018年9月19日水曜日

今も昔も変らぬ苔

曼殊院の苔


 多分今も昔も変わらぬ風貌を見せている苔。
かつて、家々の庭には普通に苔もあったようです。


 太政大臣となったかつての頭中将が、新婚の夕霧夫婦の家を訪れてこんな歌を詠んでいます。この新婚夫婦の家はかつての大宮(夕霧たちの祖母・太政大臣の母)の家です。

 昔おはさひし御ありさまにもをさをさ変ることなく、あたりあたりおとなしくて住まひたまへるさま、はなやかなるを見たまふにつけても、いとものあはれにおぼさる。(略) そのかみの老木はむべも朽ちぬらむ植えし小松も苔生ひにけり《藤裏葉の巻》 

八大神社の苔

 太政大臣は、かつての母の家に幸せそうに住む娘夫婦に感無量です。
結婚に反対してきたことなど忘れて今は立派な婿、夕霧に満足しています。

ここでは苔が歳月の流れを象徴するものとして使われています。

 
 宇治十帖では、薫が、急死した浮舟を悲しんで、宇治の山荘を訪れ、苔に座して嘆く様が描かれています。庭には苔が普通にあったことがうかがわれます。薫は死穢にふれることを避けるため、屋敷には入らず、庭で、苔に座しています。

 さばかりの人の子にては、いとめでたかりし人を、忍びたることはかならずしもえ知らで、わがゆかりにいかなりけることのありけるならむ、とぞ思ふらむかし、など、よろづにいとほしくおぼす。穢らひといふことはあるまじけれど、御供の人目もあれば、のぼりたまはで、御車の榻を召して、妻戸の前にぞゐたまへりけるも、見苦しければ、いとしげき木の下に、苔を御座にてとばかりゐたまへり。《蜻蛉の巻》 

 


八大神社の苔


 実は浮舟は死なずに生きていたのですが、そんなこととは知らぬ薫は、自分との間になにか問題があって浮舟は死を選んだと人は思うだろう、それにしても惜しいことをした、と落ち込んでいます。

苔はおそらく千年前も今もあまりかわらぬ姿をしているのではないでしょうか。苔に昔のことをちょっと尋ねてみたい気がします。











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 【声と響き 木霊する源氏物語】Vol.2
      朗読 岸本久美子 唄 上野洋子
 【日時】 2019年4月21日(日)14:00 開演
 【会場】 京都堀川音楽高等学校 音楽ホール

 詳しくは後ほどお知らせいたします。