今年も紅葉の季節がやってきました。錦秋と言う言葉がありますが、本当に秋は錦。
目に入る風景が明るい黄や茜に変わって、あー秋が来たなぁと時間の流れを感じます。
王朝の貴族たちは、四季の移ろい、自然の風物を愛しました。けれども、実際に戸外を歩きまわることなど女君にはできないことでした。邸の中から、お庭を眺めて草木を楽しむのが精一杯だったことでしょう。そこで、山の紅葉は立派なお土産となりえました。
源氏物語でも、光源氏が、しばらく籠っていた山寺から、藤壺に紅葉の枝を持ち帰っています。
結び文付けてみました |
山づとに持たせたまへりし紅葉、御前のに御覧じくらぶれば、ことに染めましける露の心も見過ぐしがたう、おぼつかなさも、人わろきまでおぼえたまへば、(源氏の君は)ただおほかたにて(藤壺の)宮に参らせたまふ。(略)げにいみじき枝どもなれば、(藤壺の宮は)御目とまるに、例のいささかなるものありけり。人々見たてまつるに、御顔の色もうつろひて、なほかかる心の絶えたまはぬこそ、いとうとましけれ、(略)人もあやしと見るらむかしと、心づきなくおぼされて、瓶にささせて、廂の柱のもとにおしやらせたまひつ。《賢木の巻》
素晴らしい紅葉の枝だったので藤壺は喜んだのですが、よく見ると枝に何やら結び文らしきものがあったのです。二人の間は禁断の恋。藤壺は、源氏の危険な行為に、青ざめ、一旦は手にとった枝を、瓶に挿させて遠ざけたのでした。
紫式部の実も綺麗 |
もう一か所、薫が、正室の女二宮への土産に、宇治から紅葉を持ち帰った場面もご紹介しておきましょう。
暗うなれば出でたまふ。下草のをかしき花ども、紅葉など折らせたまひて、宮に御覧ぜさせたまふ。かひなからずおはしぬべけれど、かしこまり置きたるさまにて、いたうも馴れきこえたまはずぞあめる。《東屋の巻》
帝から特に許されて妻とした女二宮。薫の山土産を喜んでくれたと思うけれども、身分高く慎み深い妻は、「まあ嬉しい」と喜びをあらわにはしてはくれません。薫はまだこの宮にどうも親しめないでいます。
さて、これから紅葉の楽しめる季節。山でも野原でも自由に歩き回れる時代に生をうけたことに感謝しつつ、秋を楽しみたいものです。
【声と響き 木霊する源氏物語】Vol.2
朗読 岸本久美子 唄 上野洋子
【日時】 2019年4月21日(日)14:00 開演
【会場】 京都堀川音楽高等学校 音楽ホール
詳しくは後ほどお知らせいたします。
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