2020年3月23日月曜日

国宝源氏物語絵巻の桜



12世紀、院政時代のものとされる国宝源氏物語絵巻は、当初、百場面くらいの絵があったらしいということですが、今残っているのは十九場面ほどです。


絵巻に描かれた桜はこんな感じ
その中に一つだけ、桜が描かれているものがあります。里桜というのでしょうか。褪色していて、色はよくわかりませんが、花びらは少し離れて五枚ずつ描かれています。
いわゆる典型的な桜の花の姿をしています。

絵の真ん中に、満開の桜の木。その手前に、垣間見する男、夕霧の息子蔵人の少将が描かれています。そした、桜の木のむこうに、二人の娘が碁盤を囲む姿。
玉鬘の娘の大君と中君です。
二人は庭の桜がどちらの所有であるかを、碁の勝負で決めようとしているのです。
夕暮れになって、室内は暗いので、外に近い所に碁盤を運び、御簾も巻き上げてありましたから、覗かれれば丸見えです。

 昔よりあらそひたまふ桜を賭物にて、「三番に数一つ勝ちたまはむかたに、花を寄せてむ」とたはぶれかはし聞こえたまふ。暗うなれば、端近うて打ち果てたまふ。御簾巻き上げて、人々皆いどみ念じきこゆ。をりしも例の少将、侍従の君の御曹司に来たりけるを、うち連れて出でたまひにければ、おほかた人少ななるに、廊の戸のあきたるに、やをら寄りてのぞきけり。(略)若き人々のうちとけたる姿ども、夕ばえをかしう見ゆ。《竹河の巻》

これはソメイヨシノ

三番勝負で結局中君(妹)の方が勝ちます
絵巻には、碁盤を囲む姉妹の他に、それを見守りながらくつろいでいる侍女たちの華やかな姿が描かれています。なんとものどかな場面です。




2020年3月19日木曜日

木霊する源氏物語第3弾延期のお知らせ

またもや残念なお知らせです。
5月に予定しておりました「木霊する源氏物語」の第三回目公演は延期となりました。
準備を進めて参りましたが、関係者で相談の結果、今回は見送ろうという結論になりました。
参加を予定していて下さった方にはご迷惑をお掛けします。いずれ改めて実施するつもりですので、その折にはまたよろしくお願いします。




2020年3月4日水曜日

玉鬘ーーー三稜(みくり)の筋を辿って

みくり 真ん中に筋があります



源氏の君は、自分が連れ出した為に死なせてしまった夕顔という女性のことが忘れられずにいました。
その夕顔には幼い娘(父親は源氏ではない)がいたはずなのですが、行方が知れません。探し続けて、20年ちかくも経ってから、奇跡的にその娘を見つける事が出来たのでした。すぐにも手元に引き取りたい思いでしたが、どのような娘なのか、自分の元にある者として恥ずかしくない教養を身に付けてはいるのだろうかと、値踏みするべくまずは手紙を出したのでした。

その手紙の最後に書きつけたのがこの歌です。

(源氏)「知らずとも尋ねて知らむ三島江に 生ふる三稜(みくり)の筋は絶えじを

【あなたは知らないかもしれませんが、あなたと私は切っても切れない筋でつながっているのです】 

それに対して玉鬘はこう返歌しました。

(玉鬘)「数ならぬ三稜や何の筋なれば うきにしもかく根をとどめけむ」

【数ならぬ身の私はどういう筋合いでこの憂き世に生まれ育ったのでしょうか】


「うき」は泥のことで、憂きとの掛詞になっています。

この返しの歌と筆跡で「合格」となり、彼女は源氏の邸にひきとられたのでした。

ところで、この「三稜」は沼沢に自生する草で背面中央に突起した筋があるので、「筋」を導きます。この草をずっと探していたのですが、なかなか見つかりません。
はっと思い当たって、城南宮の源氏の庭を訪ねて見ました。

ありました。ただ、まだ早春で葉は長く伸びてはいず、若草でしたが。




2020年3月2日月曜日

末摘花と紅梅


紅の花=赤い鼻?


源氏物語の中には、笑いものにされている女性が三人います。
皆さんもご存知でしょうが、近江の君と末摘花、源典侍です。これらの女性の描き方には、紫式部のちょっと意地悪な面が(あるいは意地悪を装っている面が)のぞいているように思います。

近江の君は育ちの悪さを、源典侍はその好色ぶりを、末摘花はその古風さと容貌の異様さ(鼻が長くて先が赤い)とが笑いものになっています。

末摘花の元を訪れて、自宅に戻った源氏の君は、かわいらしく美しい若紫を見て、二人の容貌のあまりの違いに、複雑な気持ちになります。

自分の鼻の先に赤く紅を塗って若紫に見せて、「こんな顔になったらどうする?」と言って戯れたりもしています。




庭の紅梅が咲き初めたのを見ても、末摘花の鼻を思い出してしまうのでした。

日の、いとうららかなるに、いつしかと霞わたれる梢どもの、心もとなきなかにも、梅はけしきばみほほゑみわたれる、とりわきて見ゆ。階隠のもとの紅梅、いと疾く咲く花にて、色づきにけり。「紅の花ぞあやなくうとまるる 梅の立ち枝はなつかしけれど 、いでや」とあいなくうちうめかれたまふ。《末摘花の巻》 


「梅の高く伸びた枝には心惹かれるけれど、先に赤い花を付けているのを見ると、わけもなくいやになる」などと一人で呟いているのでした。