2017年12月27日水曜日

落葉と呼ばれた二人の女性

源氏物語の「落葉の人」と言えば、「落葉の宮」がまず思い出されます。女三宮に恋慕する柏木が、女三宮の代わりに手に入れた女二宮―――女三宮の腹違いの姉です。その女二宮と結婚してみたものの「同じ朱雀院の娘とはいえ、やはり三宮でなくては駄目だ」と柏木の心は慰みません。いえ慰まないどころか、かえって女三宮に対する執着が増したのでした。

女房など物見に皆出でて、人少なにのどやかなれば、(女二宮は)うちながめて、筝の琴なつかしく弾きまさぐりておはするけはひも、さすがにあてになまめかしけれど、同じくは今ひと際及ばざりける宿世よと、なほおぼゆ。

(柏木)もろかづら落葉を何にひろひけむ 名はむつましきかざしなれども

と書きすさびゐたる、いとなめげなるしりうごとなりかし。(若葉下の巻)


 語り手も「なぜ落葉を拾ったのだろうなんて、随分失礼な愚痴だこと」とコメントしています。同じ皇女である女二宮が、女三宮と比べて、その高貴さや優雅さにおいて、劣っていたとは思えないのですが、人間は「思い込んだら百年目」みたいなところがあるのでしょうか。
この後、結局、柏木は女三宮との密通へと走ってしまうのでした。

さて、もう一人の「落葉」は近江の君です。内大臣(昔の頭中将)が、探し出して引き取った娘です。源氏がどこかから探し出して引き取った娘が、大変な美人で、評判になっていると知って、内大臣は、我も負けじとばかりに手を尽くして、娘を探し出して引き取りました。ところが、その娘はとんでもない山出しで、無邪気ながら、はしたない言動で一家の悩みの種になります。
もともと、内大臣には大切に手元で育てた娘、雲居の雁がありました。息子夕霧と、その雲居の雁との結婚を認めようとしない内大臣に対する嫌味を込めて、源氏は、夕霧に「同じ姉妹なのだから、内大臣家の嫌われ者のその娘と結婚したらいいじゃないか」と言います。


「朝臣(夕霧)や、さやうの落葉をだに拾へ。人わろき名の後の世に残らむよりは、おなじかざしにてなぐさめなむに、なでふことかあらむ」と弄じたまへるやうなり。かやうのことにてぞ、うはべはいとよき御仲の、昔よりさすがに隙ありける、まいて中将(夕霧)をいたくはしたなめて、わびさせたまふつらさをおぼしあまりて、なまねたしとも漏り聞きたまへとおぼすなりけり。(常夏の巻)


この言葉は、夕霧の所に遊びに来ていた、内大臣の息子たちのいる所で、夕霧に向かって投げられたものです。「内大臣の耳に入って口惜しがったらちょうどいい」と源氏は思ったのでした。


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2017年12月15日金曜日

源氏物語の宿木

木々が葉を落とすと、宿木が丸く愛らしい姿を現します。京都で、いわゆる「宿木」が多く自生しているのは、私の知る所では、中書島の川沿い、宇治の川沿い、それから北山の八丁平です。冬になると木によっては実を着けて、何とも素敵です。
中書島の宿木
源氏物語の宿木の巻は、宇治も舞台になっているので、何度か登場する「宿木」は、このポンポン状の宿木のことだと、かつては思っていたのですが、実はそうではなく、宿木とは、元々他の木に寄生する植物一般を指したものゆえ、蔦のことなのです。
そして、歌語として、「宿りき」つまり、「泊まった」という意味の語との掛詞として使われたのでした。
宿木の巻は、薫が浮舟の存在を知り、その姿を垣間見して、いたく心惹かれるという、この後の宇治十帖の展開に大きな意味を持つ巻です。
浮舟の素性を知ろうと、宇治を訪れた薫が、一夜、昔のことを知る弁の尼と語り合います。

源氏物語の宿木

木枯の堪へがたきまで吹きとほしたるに、残る梢もなく散り敷きたる紅葉を踏み分けけるあとも見えぬを見わたして、とみにもえ出でたまはず。いとけしきある深山木にやどりたる蔦の色ぞまだ残りたる。こだになどすこし引きとらせたまひて、宮へとおぼしくて持たせたまふ。

 

  やどりきと思ひいでずば木のもとの 旅寝もいかにさびしからまし

とひとりごちたまふを聞きて、尼の君、

 

  荒れ果つる朽木のもとをやどりきと 思ひおきけるほどの悲しさ

あくまでも古めきたれど、ゆゑなくはあらぬをいささかのなぐさめにはおぼしける。(宿木の巻)


薫は、以前この宿に、今は亡き姫君(大君)を訪ねて、宿りしたことを思い出し、尼は、寂しくなったこの宿を、忘れずに訪ねてくれた薫と、姫亡き悲しさを共にしています。





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2017年12月3日日曜日

秋好む中宮の秋の庭

光源氏が、35歳の時に造営した宏大な邸宅六条院は、四季の庭と、それに付随する御殿からなるものでした。その秋の御殿の主人が、秋好む中宮です。

中宮の御町をば、もとの山に、紅葉の色濃かるべき植木どもを植ゑ、泉の水遠くすましやり、水の音まさるべき巌立て加へ、滝おとして、秋の野をはるかに作りたる、そのころにあひて、さかりに咲き乱れたり。嵯峨の大井のわたりの野山、無徳にけおされたる秋なり。(少女の巻)

中宮の秋の庭は、美しいとされる嵯峨あたりの野山よりも、もっと秋らしい美しさを備えていたとあります。秋の盛り、中宮は、隣の、春の御殿の紫の上の元に、秋の花紅葉を届けて、春秋優劣の論争を仕掛けました。


長月になれば、紅葉むらむら色づきて、宮の御前えも言はずおもしろし。風うち吹きたる夕暮れに、御箱の蓋に、いろいろの花紅葉をこきまぜて、こなたにたてまつらせたまへり。(略)御消息には

心から春まつ園はわがやどの 紅葉を風のつてにだに見よ

若き人々、御使もてはやすさまどもをかし。御返りは、この御箱の蓋に苔敷き、巌などの心ばへして、五葉の枝に

風に散る紅葉はかろし春の色を 岩根の松にかけてこそ見め

この岩根の松も、こまかに見れば、えならぬ作りごとどもなりけり。
(少女の巻)


中宮は、紫の上に「あなたの春の庭はさびしいでしょう。せめて私の庭の紅葉でも御覧なさい」と詠みかけ、紫の上は「風に散る紅葉なんて・・・・・。春の美しさをこの岩根の松の緑に見てくださいな。」と作り物の松で反論しました。
なんと優雅な争いでしょう。




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