中宮の御町をば、もとの山に、紅葉の色濃かるべき植木どもを植ゑ、泉の水遠くすましやり、水の音まさるべき巌立て加へ、滝おとして、秋の野をはるかに作りたる、そのころにあひて、さかりに咲き乱れたり。嵯峨の大井のわたりの野山、無徳にけおされたる秋なり。(少女の巻)
中宮の秋の庭は、美しいとされる嵯峨あたりの野山よりも、もっと秋らしい美しさを備えていたとあります。秋の盛り、中宮は、隣の、春の御殿の紫の上の元に、秋の花紅葉を届けて、春秋優劣の論争を仕掛けました。
長月になれば、紅葉むらむら色づきて、宮の御前えも言はずおもしろし。風うち吹きたる夕暮れに、御箱の蓋に、いろいろの花紅葉をこきまぜて、こなたにたてまつらせたまへり。(略)御消息には
心から春まつ園はわがやどの 紅葉を風のつてにだに見よ
若き人々、御使もてはやすさまどもをかし。御返りは、この御箱の蓋に苔敷き、巌などの心ばへして、五葉の枝に
風に散る紅葉はかろし春の色を 岩根の松にかけてこそ見め
この岩根の松も、こまかに見れば、えならぬ作りごとどもなりけり。
(少女の巻)
中宮は、紫の上に「あなたの春の庭はさびしいでしょう。せめて私の庭の紅葉でも御覧なさい」と詠みかけ、紫の上は「風に散る紅葉なんて・・・・・。春の美しさをこの岩根の松の緑に見てくださいな。」と作り物の松で反論しました。
なんと優雅な争いでしょう。
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