野分吹く頃に咲く花はみな茎が細く長い。
強い風にはひとたまりもなくなびき倒れ伏すようなものばかり。萩の花などはその典型ですが、女郎花も御多分に漏れず、細い茎の先に小さい花の冠をつけます。少しの風にもゆらゆら揺れています。なぜ台風のシーズンにこのか弱い姿で・・・と思ったのですが、よく考えてみると、風に抵抗しないで倒れてしまうからこそ、生き延びられるのだと気づきました。
ところで、女郎花はその字面もあってか、万葉集以来多くの歌に詠まれてきました。源氏物語の中でも多く登場しています。実際に多くの貴族の家で、庭に植えていたようです。
御前に人も出で来ず、いとこまやかにうちささめきかたらひ聞こえたまふに、いかがあらむ、まめだちてぞ立ちたまふ。女君(玉鬘)
吹き乱る風のけしきに女郎花
しおれしぬべきここちこそすれ
くはしくも聞こえぬに、うち誦じたまふをほの聞くに、(略)立ち去りぬ。御返り、
「した露になびかましかば女郎花 荒き風にはしをれざらまし なよ竹を見たまへかし」(野分)
この場面は源氏が息子夕霧を引き連れて女君たちのところを野分の見舞に回って、玉鬘を訪れたところです。
少し離れた所から、夕霧がこっそりのぞいていると、二人は親子のはずなのに(玉鬘は成人したのちに見つけられて源氏の元にひきとられた)なぜか色めいた雰囲気。源氏は玉鬘を抱き寄せたりしている・・・・。まじめな夕霧は「あなうとまし」とあきれつつ、その場をそっと離れたのでした。
玉鬘と源氏の歌は、目の前にある、風で倒れた女郎花になぞらえたものです。
玉鬘は「あなたの無体な恋に私は倒れて死んでしまいそうです」と訴え、源氏は「私にすべてを任せてしまえばそんなに苦しむことはなかろうに」と中年男のいやらしさ満載の歌を返しています。
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