この頃、うちの近くでもよく見かけます。
源氏物語では、その名は、一度だけ、浮舟とともに登場しています。
命を助けられて、大原に近い比叡山の麓の山荘で、老尼たちと、静かに暮らす日々。浮舟は、自らを、「世になきもの」と思いなして、助けてくれた尼君たちにも、一切、過去を語りません。
ある日、尼君の亡き娘の婿であった男が、横川に通う道すがら、その山荘に立ち寄ります。その、京の空気をまとった男たちの姿に、浮舟は薫を思い出しています。
前駆うち追ひて、あてやかなる男の入り来るを(浮舟は)見出して、忍びやかにおはせし人の御さまけはひぞ、さやかに思ひ出でらるる。
これもいと心細き住ひのつれづれなれど、住みつきたる人々は、ものきよげにをかしくしなして、垣ほに植ゑたる撫子もおもしろく、女郎花、桔梗など咲きはじめたるに、いろいろの狩衣姿の男どもの若きあまたして、君も同じ装束にて、南面に呼びすゑたれば、うちながめてゐたり。(手習の巻)
浮舟は薫を思い出しはしても、過去の暮らしに戻りたいとは決して思いません。
薫や匂宮といった身分高い男性から愛された、華やかな過去をすべて捨て去った浮舟。
その寂しい横顔は桔梗の花に似ています。
▶『岸本久美子フェイスブック』はコチラ
▶『岸本久美子のツイッター』はコチラ
0 件のコメント:
コメントを投稿