2017年8月11日金曜日

浮舟の見た桔梗

桔梗は清楚でどこか寂し気に咲く花。
この頃、うちの近くでもよく見かけます。
 源氏物語では、その名は、一度だけ、浮舟とともに登場しています。
 
 命を助けられて、大原に近い比叡山の麓の山荘で、老尼たちと、静かに暮らす日々。浮舟は、自らを、「世になきもの」と思いなして、助けてくれた尼君たちにも、一切、過去を語りません。
 
 ある日、尼君の亡き娘の婿であった男が、横川に通う道すがら、その山荘に立ち寄ります。その、京の空気をまとった男たちの姿に、浮舟は薫を思い出しています。

 前駆うち追ひて、あてやかなる男の入り来るを(浮舟は)見出して、忍びやかにおはせし人の御さまけはひぞ、さやかに思ひ出でらるる。

 これもいと心細き住ひのつれづれなれど、住みつきたる人々は、ものきよげにをかしくしなして、垣ほに植ゑたる撫子もおもしろく、女郎花、桔梗など咲きはじめたるに、いろいろの狩衣姿の男どもの若きあまたして、君も同じ装束にて、南面に呼びすゑたれば、うちながめてゐたり。(手習の巻)


 浮舟は薫を思い出しはしても、過去の暮らしに戻りたいとは決して思いません。
 
 薫や匂宮といった身分高い男性から愛された、華やかな過去をすべて捨て去った浮舟。
 その寂しい横顔は桔梗の花に似ています。

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