2019年3月23日土曜日

姫君も食べた土筆


春風に誘われて土筆摘みにでかけました。いつもの場所、今年もありました。




王朝時代の人々にとっては、土筆も、多分貴重な食材だったことでしょう。油のなかった時代、おひたしにして食べていたのでしょうか。うちでは炒め物にしますが。

袴をとって炒めます

源氏物語では宇治十帖で、父八の宮に続いて、姉君も亡くなって、寂しく暮らす中君の元に、山の阿闍梨から蕨と土筆が届けられています。「つくし」は「つくづくし」と言われていたようです。




阿闍梨のもとより、年あらたまりては、何ごとかおはしますらむ。御祈りは、たゆみなくつかうまつりはべり。今は一所の御ことをなむ、やすからず念じきこえさする。など聞こえて、蕨、つくづくし、をかしき籠に入れて、「これは童べの供養じてはべる初穂なり」とてたてまつれり。《早蕨の巻》




阿闍梨の手紙には「今となりましては姫君お一人の延命息災をひたすら仏に祈っております」とあって、ただ一人残された中君を案じています。

その思いを蕨と土筆に籠めて贈ったものです。
結局中君は一人で宇治に寂しく暮らすことはできず、匂宮に引き取られて京に移り住むこ
とになります。










<<朗読会を開催します>>
~声と響き 木霊する源氏物語~   朗読と唄で織りなす物語[第二弾]
【第一部 明石の君の物語/第二部 六条御息所の物語】

【日時】 2019年4月21日(日)14:00 開演
           (13:00 開場/15:30 閉演)
【会場】 京都堀川音楽高等学校 音楽ホール
【入場料】 前売券1,500円/当日券2,000円/高校生以下無料/全席自由席
 「チケットぴあ」でご購入  Pコード「490-943」
     ※チケットのご購入後にキャンセルすることはできません。
【前売券 販売期限】 2018年12月1日(土)~2019年4月20日(土)まで

2019年3月18日月曜日

榊も樒も花をつける頃



梅が終わり、桜が待たれるこの季節。様々な木々が一斉に花をつけます。
山茱萸(サンシュユ)や金縷梅(マンサク)、沈丁花・・・そして、榊も樒も。

榊の花

樒の花

現代の私たちも神棚には榊、仏壇には樒と区別してお供えしますが、源氏物語の時代にも、同じように区別されていたことが、物語の記述からわかります。

榊が出て来る場面はいくつかあるのですが、一つは光源氏が御願果たしの住吉詣でをした折の場面。人々が榊葉を手に、夜を徹して神楽を踊り狂っています。


榊の枝

ほのぼのと明けゆくに、霜はいよいよ深くて、本末もたどたどしきまで、酔ひ過ぎにたる神楽おもてどもの、おのが顔をば知らで、おもしろきことに心はしみて、庭熾も影しめりたるに、なほ「万歳、万歳」と、榊葉を取り返しつつ祝ひきこゆる御世の末、思ひやるぞいとどしきや。《若菜下の巻》 

他に、榊が多く登場しているのは、は言わずと知れた「賢木」の巻です。源氏の君が嵯峨野野々宮に六条御息所を訪ねる場面では二人の間で榊を詠み込んだ歌の贈答があります。

そしてさらに、伊勢に旅立つ御息所が、自分の邸の前を通り過ぎる時、源氏の君は榊に付けた歌を届けさせています。


榊の木の姿

二条の院の前なれば、大将の君(源氏)いとあはれにおぼされて、榊にさして、ふりすてて今日は行くとも鈴鹿川 八十瀬の波に袖はぬれじやと聞こえたまへれど、いと暗うものさわがしきほどなれば、またの日、関のあなたよりぞ御返りある。《賢木の巻》 

一方の樒はどうでしょう。こちらは二回しか出てきません。
一つは出家した朧月夜の君が、源氏の君の歌への返事として届けた歌。これが樒の枝に付けられていました。



「あま舟にいかがは思ひおくれけむ 明石の浦にいさりせし君回向には、あまねきかどにてもいかがは。」とあり。濃き青鈍の紙にて、樒にさしたまへる、例のことなれど、いたく過ぐしたる筆づかひ、なほ古りがたくをかしげなり。《若菜下の巻》 


もう一度は、宇治十帖で、薫が、八の宮の娘大君と一夜を契るべく口説く場面です。二人が横になっているのは仏間で、お香や樒が匂っています。

しかも、大君はまだ父の喪中で、墨染の衣です。拒む大君と無理に契る気にはとてもなれず、結局、薫は一晩やさしく語り合っただけで、そのまま帰るしかありませんでした。

樒は独特の香りがあるので、この頃は仏前に供える水に散らして用いたようです。

樒の木の姿

御かたはらなる短き几帳を仏の御方にさし隔てて、かりそめに添ひ臥したまへり。名香のいと香ばしく匂ひて、樒のいとはなやかに薫れるけはひも、人よりはけに仏をも思ひきこえたまへる御心にて、わづらはしく、墨染の今さらに、をりふし心焦られしたるやうに、あはあはしく、(略)などせめてのどかに思ひなしたまふ。《総角の巻》








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2019年3月4日月曜日

梅花薫る頃




今年も、梅の薫る季節がやって来ました。私はこの季節が好きです。
現代に咲く色々な花の中で、王朝人がみたものとさほど変わっていないのが梅の花ではないかと勝手に思い込んでいます。桜に比べると地味で、それでいて薫り高いこの花は、何とはなしに古風ではありませんか。

さて、源氏物語には「梅」と名のつく巻が二つもあります。「梅枝」の巻と「紅梅」の巻です。
ここでは「梅枝」の巻をご紹介しましょう。
この巻は、光源氏が、娘明石姫の裳着と、それに引き続く入内の準備に明け暮れる、たいそうめでたく明るい巻です。
姫の嫁入り道具は色々ありますが、中でも父親源氏の君が心を砕いているのは、薫物(お香)と草子(綴じ本)でした。薫物はこの方ならという方々に依頼して作らせています。

早春のある日、弟の蛍兵部卿が訪ねて来ている所に前斎院から薫物が届きます。そしてこのあと、薫物比べという優雅な催しが行われます。


きさらぎの十日、雨すこし降りて、お前近き紅梅盛りに、色も香も似るものなきほどに、兵部卿の宮わたりたまへり。(略)花をめでつつおはするほどに、前斎院よりとて、散り過ぎたる梅の枝につけたる御文持て参れり。 


文を付けた梅の枝と共に、依頼していた薫物が届きました。梅花香の入った白い瑠璃の坏には、梅の枝の造花が添えられ、黒方香の入った紺色の瑠璃の坏には五葉松の造花が添えられています。そして梅の枝にはこんな歌が添えられています。

花の香は散りにし枝にとまらねど うつらむ袖に浅くしまめや 


「この散り過ぎた枝のように、盛りを過ぎた私にはなんの色香も残っていませんが、姫様のお袖に私の差し上げた香が薫ることでしょう」と言う意味の歌です。
前斎院は朝顔斎院と呼ばれる女君で、かつて源氏の君が何度も求愛の文を送ったけれども、なびいてはくれなかった方です。











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