梅が終わり、桜が待たれるこの季節。様々な木々が一斉に花をつけます。
山茱萸(サンシュユ)や金縷梅(マンサク)、沈丁花・・・そして、榊も樒も。
榊の花 |
樒の花 |
現代の私たちも神棚には榊、仏壇には樒と区別してお供えしますが、源氏物語の時代にも、同じように区別されていたことが、物語の記述からわかります。
榊が出て来る場面はいくつかあるのですが、一つは光源氏が御願果たしの住吉詣でをした折の場面。人々が榊葉を手に、夜を徹して神楽を踊り狂っています。
ほのぼのと明けゆくに、霜はいよいよ深くて、本末もたどたどしきまで、酔ひ過ぎにたる神楽おもてどもの、おのが顔をば知らで、おもしろきことに心はしみて、庭熾も影しめりたるに、なほ「万歳、万歳」と、榊葉を取り返しつつ祝ひきこゆる御世の末、思ひやるぞいとどしきや。《若菜下の巻》
他に、榊が多く登場しているのは、は言わずと知れた「賢木」の巻です。源氏の君が嵯峨野野々宮に六条御息所を訪ねる場面では二人の間で榊を詠み込んだ歌の贈答があります。
そしてさらに、伊勢に旅立つ御息所が、自分の邸の前を通り過ぎる時、源氏の君は榊に付けた歌を届けさせています。
榊の木の姿 |
二条の院の前なれば、大将の君(源氏)いとあはれにおぼされて、榊にさして、ふりすてて今日は行くとも鈴鹿川 八十瀬の波に袖はぬれじやと聞こえたまへれど、いと暗うものさわがしきほどなれば、またの日、関のあなたよりぞ御返りある。《賢木の巻》
一方の樒はどうでしょう。こちらは二回しか出てきません。
一つは出家した朧月夜の君が、源氏の君の歌への返事として届けた歌。これが樒の枝に付けられていました。
樒 |
「あま舟にいかがは思ひおくれけむ 明石の浦にいさりせし君回向には、あまねきかどにてもいかがは。」とあり。濃き青鈍の紙にて、樒にさしたまへる、例のことなれど、いたく過ぐしたる筆づかひ、なほ古りがたくをかしげなり。《若菜下の巻》
もう一度は、宇治十帖で、薫が、八の宮の娘大君と一夜を契るべく口説く場面です。二人が横になっているのは仏間で、お香や樒が匂っています。
しかも、大君はまだ父の喪中で、墨染の衣です。拒む大君と無理に契る気にはとてもなれず、結局、薫は一晩やさしく語り合っただけで、そのまま帰るしかありませんでした。
樒は独特の香りがあるので、この頃は仏前に供える水に散らして用いたようです。
樒の木の姿 |
御かたはらなる短き几帳を仏の御方にさし隔てて、かりそめに添ひ臥したまへり。名香のいと香ばしく匂ひて、樒のいとはなやかに薫れるけはひも、人よりはけに仏をも思ひきこえたまへる御心にて、わづらはしく、墨染の今さらに、をりふし心焦られしたるやうに、あはあはしく、(略)などせめてのどかに思ひなしたまふ。《総角の巻》
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