2017年3月31日金曜日

ああ、桜の頃・桜の人紫の上

屏風岩の桜(昨春)
桜に心が騒ぐのは、私たちが、王朝人と同じ心をもっているから――― 知らず知らずのうちに、古今和歌集に根差す美意識に支配されているからだと私は思っています。

 光源氏の息子夕霧は、ある朝、たまたま、義母紫の上を垣間見る機会を得ました。

 見通しあらはなる廂の御座にゐたまへる人、ものにまぎるべくもあらず、気高くきよらに、さちにほふここちして、春の曙の霞の間より、おもしろき樺桜の咲き乱れたるを見るここちす。

                     (野分の巻)

 義母の姿を初めて見た夕霧は、その美しさに魂を奪われ、父が決して紫の上を自分と会わせてくれなかった理由を理解したのでした。

 
 光源氏のほうは、女楽の夕べに紫の上の姿を覗き見て

 紫の上は、・・・・・様体あらまほしく、あたりににほひ満ちたるここちして、花といはば桜にたとへても、なほものよりすぐれたるけはひことにものしたまふ。

                       (若菜下の巻)

と最高の花である桜に擬しつつも、それ以上の素晴らしさだと手放しで賞賛しています。
千本釈迦堂の枝垂れ桜(昨春)

 早咲きの河津桜はすでに散り果て、これから次々に、いろいろな種類の桜が咲きます。御所の枝垂れ、岡崎の早咲きの桜はもう咲いているかもしれない・・・・。あの桜もこの桜も・・・と気の急く日が続きます。雨はなるべく降らないでほしいもの。
 
 ところで、京都は日本一桜の多い都市ではないかとこの頃感じています。


▶『岸本久美子フェイスブック』はコチラ

▶『岸本久美子のツイッター』はコチラ

2017年3月24日金曜日

青柳の糸揺れる頃

青柳になぞらえられた女三宮

 

 にほひやかなるかたは後れて、ただいとあてやかにをかしく、二月の中の十日ばかりの青柳の、わづかにしだりはじめたらむここちして、鶯の羽風にも乱れぬべく、あえかに見えたまふ。桜の細長に、御髪は左右よりこぼれかかりて、柳の糸のさましたり。(若菜下の巻)


 
 女楽の夕べ、女君たちが、六条院廂の間に集いました。
 その夜の女三宮の姿は、光源氏の目に、こういうふうに映りました。
近くで見ると

 旧暦二月の中旬は、ちょうど今頃にあたります。高野川や賀茂川べりの柳も、細い枝が青くなって揺れています。
 
 この時期の若柳は、あえかな、いかにもか弱くて、頼りなげな、若いころの女三宮のイメージにぴったりだと思います。

 私はこの時期から柳絮を飛ばす頃までの柳が好きです。

▶『岸本久美子フェイスブック』はコチラ

▶『岸本久美子のツイッター』はコチラ

2017年3月13日月曜日

春の訪れ

源氏物語初音の巻には


  雪間の草若やかに色づきはじめ、いつしかとけしきだつ霞に、
 木の芽もうちけぶり、おのづから人の心ものびらかに見ゆるかし。



と六条院の春が描かれています。
 
春の訪れに心がのびやかになるのは今も昔も同じ。
 
昨日は奈良県の奥深い山里に訪れた春を味わいに出かけました。賀名生の里です。今もまだ雪を頂く大峰山系を遥かに望む梅の里。まだまだ朝は霜が真っ白に降りる山里にも、ようやく春が訪れて、梅はほころび、蕗の薹があたまをもたげ、金縷梅や三椏などの鮮やかな黄色い花たちも次々に蕾を紐解いて、春の祝祭が始まっていました。

▶『岸本久美子フェイスブック』はコチラ

▶『岸本久美子のツイッター』はコチラ

2017年3月11日土曜日

源氏物語特別講座

今日、堀川高校で、恒例の源氏物語特別講座を持ちました。
毎年、堀川高校の御厚意で十年以上にわたってこの講座を持ってきましたが、毎回十代の高校生から七〇代の市民の方まで幅広い方のご参加を得て楽しく続けてきました。
 
 年によっては、高校生とそのお父様お母様が並んで一緒に同じ講座を聞いていらっしゃるという微笑ましい場面もありました。

今回も二時間以上にわたる講座を、熱心に聞いて下さった皆様、有難うございます。
今回は、頭中将というちょっと面白味に欠ける人物がテーマでしたが、皆さん興味深げに聞いて下さいました。
 堀川高校でのこの講座、いつまで続けられるのかちょっと?ですが、少なくとも、来年度は続ける予定です。 今後ともよろしくお願いいたします。

なお、今回の結論は
「頭中将は光源氏にはなれない男であったが故に、我々に、『光源氏的であるとはどういうことか』を教えてくれる存在であった」
というものでした。

▶『岸本久美子フェイスブック』はコチラ

▶『岸本久美子のツイッター』はコチラ

2017年3月3日金曜日

頭中将のこと ―『源氏物語』特別講座2017年3月11日(土)を前にして―

 

  中将の君、鈍色の直衣、指貫、うすらかに衣がへして、

    いとををしうあざやかに、

      心はづかしきさまして参りたまへり。

 これは、20代のころ、喪に服す源氏の元を訪れた頭中将の姿を描いた箇所です。
 頭中将には、ここにある「ををし」とか「あざやか」という形容が、良く似合います。堀川高校での源氏講座も近づいて、このところ、彼とお付き合いする日が続いています。親しくなってみると、やっぱりなかなかいい男です。
 「光源氏より頭中将が好き」という方も多いのはもっともだなと思うこの頃です。
今回の源氏講座では、彼の若いころから老年にいたるまでの姿を本文で追ってみます。
どんな姿が現れてくるでしょうね。

----------

フェイスブックでは、講演などの最新情報をお知らせいたします。
ぜひ、ご覧ください。

▶『岸本久美子フェイスブック』はコチラ

▶『岸本久美子のツイッター』はコチラ

----------