2018年9月19日水曜日

今も昔も変らぬ苔

曼殊院の苔


 多分今も昔も変わらぬ風貌を見せている苔。
かつて、家々の庭には普通に苔もあったようです。


 太政大臣となったかつての頭中将が、新婚の夕霧夫婦の家を訪れてこんな歌を詠んでいます。この新婚夫婦の家はかつての大宮(夕霧たちの祖母・太政大臣の母)の家です。

 昔おはさひし御ありさまにもをさをさ変ることなく、あたりあたりおとなしくて住まひたまへるさま、はなやかなるを見たまふにつけても、いとものあはれにおぼさる。(略) そのかみの老木はむべも朽ちぬらむ植えし小松も苔生ひにけり《藤裏葉の巻》 

八大神社の苔

 太政大臣は、かつての母の家に幸せそうに住む娘夫婦に感無量です。
結婚に反対してきたことなど忘れて今は立派な婿、夕霧に満足しています。

ここでは苔が歳月の流れを象徴するものとして使われています。

 
 宇治十帖では、薫が、急死した浮舟を悲しんで、宇治の山荘を訪れ、苔に座して嘆く様が描かれています。庭には苔が普通にあったことがうかがわれます。薫は死穢にふれることを避けるため、屋敷には入らず、庭で、苔に座しています。

 さばかりの人の子にては、いとめでたかりし人を、忍びたることはかならずしもえ知らで、わがゆかりにいかなりけることのありけるならむ、とぞ思ふらむかし、など、よろづにいとほしくおぼす。穢らひといふことはあるまじけれど、御供の人目もあれば、のぼりたまはで、御車の榻を召して、妻戸の前にぞゐたまへりけるも、見苦しければ、いとしげき木の下に、苔を御座にてとばかりゐたまへり。《蜻蛉の巻》 

 


八大神社の苔


 実は浮舟は死なずに生きていたのですが、そんなこととは知らぬ薫は、自分との間になにか問題があって浮舟は死を選んだと人は思うだろう、それにしても惜しいことをした、と落ち込んでいます。

苔はおそらく千年前も今もあまりかわらぬ姿をしているのではないでしょうか。苔に昔のことをちょっと尋ねてみたい気がします。











<<予告>>朗読会 第二弾 日程決定!

 【声と響き 木霊する源氏物語】Vol.2
      朗読 岸本久美子 唄 上野洋子
 【日時】 2019年4月21日(日)14:00 開演
 【会場】 京都堀川音楽高等学校 音楽ホール

 詳しくは後ほどお知らせいたします。









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