2019年8月20日火曜日

桂の木陰


桂は今も身近な木で、よく見かけます。ハート型の愛らしい葉っぱをたくさん付けて夏には深い木陰を作ってくれます。



源氏物語の時代にも桂は人々に親しまれた木でした。
葵祭の時は冠などに葵の葉と桂の葉を飾る習わしがありましたし、また、月には桂の木が生えているとも信じられていました。
もちろん庭にも植えられていて、大きく広げた枝の下で王朝人も立ち話をしたりしたかもしれません。
ある晩、源氏の君が、通りがかりにふと立ち寄った昔の恋人の家にも桂の木がありました。

中川のほどおはし過ぐるに、ささやかなる家の、木立などよしばめるに、よく鳴る琴をあづまに調べて、掻きあはせ、にぎははしく弾きなすなり。御耳とまりて、門近なる所なれば、すこしさし出でて見入れたまへば、大きなる桂の木の追ひ風に、祭のころおぼし出でられて、そこはかとなくけはひをかしきを、ただ一目見たまひし宿なりと見たまふ。《花散里の巻》

 
この時は門の中に入って、女に声を掛けるのですが、長い無沙汰のせいか、女はわざと誰かわからないふりをして源氏の君の訪問を拒否します。源氏の君もいつも女性に歓迎されたというわけではないのです。

もう一つ庭の桂が出て来る場面をご紹介しましょう。
「玉鬘」という女性は六条院に源氏の娘ということで暮らしています、実は、彼女は、内大臣(かつての頭の中将)の娘なのです。

そのことが明らかにされた後、玉鬘の元へ、父大臣の使いとしてやってきた柏木青年。
そっと桂の木に隠れています。玉鬘が、実は自分と血のつながった姉であることを知らずに熱心に熱烈な恋文を出してきたという事情があり、ちょっと照れ臭いのです。


頭中将(柏木)、心を尽くしわびしことは、かき絶えにたるを、うちつけなりける御心かなと、人々はをかしがるに、殿(内大臣)の御使にておはしたり。なほもて出でず、忍びやかに御消息なども聞こえかはしたまひければ、月の明き夜、桂の蔭に隠れてものしたまへり。《藤袴の巻》




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