旧暦の正月もとっくに過ぎてしまいましたが、源氏物語に表れた新年の行事
をご紹介します。
新しい年に初めて巡って来た子(ね)の日に、小松を根から引いて、長寿を願う行事がありました。
今も、お正月の門飾りに、根付きの小松を飾るお宅を時々見かけます。
初音の巻では元旦と初子の日が重なってこれほど長寿を寿ぐに相応しい日はないと語られています。
(元旦の)今日は子の日なりけり。げに千年の春をかけて祝はむに、ことわりなる日なり。姫君の御方にわたりたまへれば、童女、下仕へなど、御前の山の小松引き遊ぶ。若き人々のここちども、おきどころなく見ゆ。《初音の巻》
近所で見かけた小松の門飾り |
もう一か所、初子の日が出てくるのが、若菜の巻です。髭黒に嫁いだ玉鬘が源氏の君の四十の賀を祝って、盛大な宴会を開きました。玉鬘は二人の幼い息子を伴っています。
正月二十三日、子の日なるに、左大将の北の方(玉鬘)若菜参りたまふ。
小松引きと、もう一つ、この日には若菜を摘んで食べる風習があり、これも同じく長寿を願うものでした。今の七草粥にこの風習は受け継がれていると思います。
(玉鬘)「若葉さす野辺の小松をひきつれてもとの岩根を祈る今日かな」とせめておとなび聞こえたまふ。
沈の折敷四つして、御若菜、さまばかり参れり。ご土器取りたまひて、(源氏)「小松原末のよはひにひかれてや野辺の若菜も年をつむべき」など聞こえかはしたまひて、上達部あまた、南の廂に着きたまふ《若菜上の巻》
玉鬘の歌の「小松」は、初子の小松に因んで、伴った息子たちのこと、「もとの岩根を祈る」は、自分を育ててくれた源氏の長寿を祈るといった意味合いです。
源氏の君は玉鬘の献じた若菜を形ばかり口にして、お酒を飲んだとあります。若菜はどんなふうに料理されていたのでしょうね。おそらく、単に茹でただけだったのでしょう。
(尼)山里の雪間の若菜摘みはやし なほ生いさきのたのまるるかな
初子の若菜は宇治十帖手習の巻にも登場します。
寂しい山里で新年を迎えた浮舟の元にも若菜が届きます。
浮舟が出家してしまったことを、惜しみ悲しみながらも慈しむ尼君と浮舟は、若菜を前に歌を詠みかわしています。
(尼)山里の雪間の若菜摘みはやし なほ生いさきのたのまるるかな
(浮舟)雪ふかき野辺の若菜も今よりは 君がためにぞ年もつむべき
尼は、浮舟に「雪間に若菜を摘んで、あなたの長寿を祈ります。あなたのこれからの行く先が、出家なさったとはいえ、やはり楽しみなことです。」と優しい言葉をかけ、浮舟も「あなたさまのために私も長生きいたしましょう」と答えています。
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