神泉苑 龍頭の船 |
龍頭鷁首を、唐のよそひにことことしうしつらひて、梶取の棹さす童べ、皆みづら結ひて、唐土だたせて、さる大きなる池の中にさし出でたれば、・・(略)・・こなたかなた霞みあひたる梢ども、錦を引きわたせるに、御前のかたははるばると見やられて、色をましたる柳、枝を垂れたる、花もえもいはぬにほひを散らしたり。ほかには盛りすぎたる桜も、今盛りにほほゑみ、廊をめぐれる藤の色もこまやかに開けゆきにけり。まして池の水に影をうつしたる山吹、岸よりこぼれていみじき盛りなり。(胡蝶の巻)
唐土風に飾り立てた船が、芽吹く樹々が風景を霞ませるなかを漕いでゆく。船を漕ぐ童までも、中国風の装いをしている。岸辺は柳や桜、藤や山吹に彩られ・・・。夢のような光景を光源氏と紫の上は並んで見ている。船では音楽が奏でられ、乗り込んだ若い女房たちが美しく装ってうっとりと池から見る景色に酔いしれている。
紫の上が一番幸せだった時期。
柳の緑が濃くなり、青紅葉が美しいこの時期になると、私は、いつもこの場面を思い浮かべる。
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