2018年2月18日日曜日

冬の人・明石の君



六条院に四季の庭を設けた時、光源氏は春の庭の舘に紫の上、秋の庭・秋好中宮、夏の庭に花散里を配し、冬の庭の舘には明石の君を住まわせました。

今よりはずっと寒く、雪も多かった王朝時代の冬、人々はじっと耐えて春を待ちました。明石の君はそういう時代の冬の季節そのままの女性として登場しているのです。


明石の君と光源氏の間に生まれた明石姫は可愛い盛りの三歳の時に、明石の君の手元から奪われて紫の上の養女となりました。この時から姫が十一歳になるまで、八年間明石の君は一度もわが子の顔を見ることなく、じっとさびしさに耐えて過ごしたのでした。

当時、大堰川のほとりの山荘に住んでいた明石の君の所に、光源氏が姫を連れ去るためにやってきます。この山荘は、今で言えば、嵐山渡月橋の上手あたりだったでしょうか。
今でこそそれほど遠い所ではありませんが、その頃は京のはずれです。
悲しい明石の君の心を象徴するような真冬の寒い日でした。


雪霰がちに、心細さまさりて、常よりもこの君(姫)を撫でつくろひつつゐたり。雪かきくらし降りつもる朝、来しかた行く末のこと、残らず思ひつづけて、例はことに端近なる出で居などもせぬを、汀の氷など見やりて、白き衣どものなよよかなるをあまた着て、ながめゐたる様体、頭つき、うしろでなど、限りなき人と聞こゆとも、かうこそはおはすらめと人々も見る。落つる涙をかき払ひて、「かやうならむ日、ましていかにおぼつかなからむ」とらうたげにうち泣きて、・・・(略)・・・この雪すこし解けてわたりたまへり。例は待ちきこゆるに、さならむとおぼゆることにより、胸うちつぶれて、人やりならずおぼゆ。(薄雲の巻) 




雪が少し溶けて道のあくのを待って源氏はやってきました。そして、姫は源氏に抱かれて行ってしまったのでした。
「お姿は最高の身分の方にも劣らない高貴な方」と周囲は思うのですが、明石の君の身分は受領階級で、姫を手元に置くことは許されないのでした。
寂しい大堰での四年間の後、明石の君は源氏が新しく造営した六条院に呼ばれてそちらに住むことになりますが、姫は春の舘に君は冬の舘に住んでいて、逢うことは許されませんでした。

けれども、冬を耐えた明石の君は、後には、明石姫の産んだ孫皇子たちに囲まれて、幸せな晩年を送ったのでした。








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