2019年7月10日水曜日

末摘花は初夏の花



末摘花は紅花とよばれた花の異名です。紅の染料にする花として当時は珍重されていました。

伸びた茎の先端から、花を順に摘むことから、末摘花と呼ばれたようです。花は始め黄色に咲き、次第に真っ赤になってゆきます。

京都ではこの花をみることは難しいと思っていたのですが、植物園にありました。
源氏物語では、常陸宮の遺児の姫君が、この名前で呼ばれています。鼻の先が赤かったことから、光源氏はこのあまり魅力的とは言えない姫君を末摘花と名付け、蔭でからかっています。
彼女は美人でないだけでなく、歌もすぐには返せない鈍重な感じの、とても魅力的とはいえない女性だったのです。
雪の朝、初めて彼女の顔を見た時に、

まづ居丈の高う、を背長に見えたまふに、さればよ、と胸つぶれぬ。うちつぎて、あなかたはと見ゆるものは、御鼻なりけり。ふと目ぞとまる。普賢菩薩の乗物とおぼゆ。あさましう高うのびらかに、先のかたすこし垂りて色づきたること、ことのほかにうたてあり。 《末摘花の巻》


と座高が高く、長い鼻の先が赤いことに幻滅。そして、その後訪ねた時にも、やはりその鼻が気になります。朝帰りする源氏を見送る彼女を振り返ってみると

出でたまふを、見送りて添ひ臥したまへり。口おほひの側目より、なほかの末摘花、いとにほひやかにさし出でたり。見苦しのわざやとおぼさる。

《末摘花の巻 》 



紅花自体はパッと明るい可愛らしい花なのですが、源氏の君は実際の花とは別に、紅花・・・赤い鼻・・・と彼女を呼んだわけです。源氏の君は実際の紅花を見たことはなかったのではないでしょうか。

ちょっとした好き心から関係を持ってしまった常陸宮の姫君ですが、あまりに魅力のない女性だったので、彼女に手を出したことを後悔するのですが、それでも結局、源氏の君は「この人を私が見捨てたら、どんな男も面倒をみようとは思うまい」と生涯お世話したのでした。



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