2017年10月24日火曜日

浮舟の再生

薫という男の世話になりながら、匂宮という新しい愛人に身も心も奪われ、そんな自分が許せなくて、悩み苦しんだ挙句、宇治川に身を投げようとした浮舟。荒れ騒ぐ川浪の音を聞いて彷よううちに、物の怪が取り憑いて、彼女は、意識を失ったまま、ずぶ濡れの状態で、ある邸の裏庭に捨てられたのです。

こんな木の根っこに浮舟はたおれていたのでしょうか

まづ僧都わたりたまふ。いといたく荒れて、恐ろしげなるところかな、と見たまひて、「大徳たち、経読め」などのたまふ。(略)火ともさせて、人も寄らぬうしろの方に行きたり。森かと見ゆる木の下を、うとましげのわたりや、と見入れたるに、白きもののひろごりたるぞ見ゆる。「かれは何ぞ」と、立ちとまりて、火を明るくなして見れば、もののゐたる姿なり。「狐の変化したる、憎し、見あらはさむ」とて、一人は今すこし歩み寄る。今一人は「あな用な。よからぬものならむ」と言ひて、さやうのもの退くべき印をつくりつつ、さすがになほまもる。頭の髪あらば太りぬべきここちするに、この火ともしたる大徳、憚りもなく、奥なきさまにて、近く寄りてそのさまを見れば、髪は長くつやつやとして、大きなる木の根のいと荒々しきに寄りゐて、いみじく泣く。(手習の巻)


人々は、あやしいものだから、捨て置けというのですが、僧都は「これは人である、この雨の中に置いておけば死んでしまう。そのようなことは仏の道に背くことだ」と皆を説得して彼女を助けたのです。亡くなった娘の生まれ変わりと世話した尼の手厚い介抱と、僧都の加持によって、浮舟は、二か月後に意識を取り戻したのでした。
しかし、再生した浮舟は自分の記憶が戻ったあとも、一切自らについて語りません。

一旦自分は死んだと思っていた彼女は、自らの過去を全て忘れようとし、美しく若い身空で、出家を決意していたのでした。
源氏物語で最後に登場する女君浮舟に、紫式部はどのような思いを託したのでしょうか。
源氏物語の中では、この場面の季節は春なのですが、私は、どうしても、冷たい秋の雨の降る日としてこの場面を思い浮かべてしまいます。



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