2017年10月8日日曜日

光源氏が楽しんだ鈴虫の宴

秋ごろ、西の渡殿の前、中の塀の東の際を、おしなべて野につくらせたまへり。(略)この野に虫ども放たせたまひて、風すこし涼しくなりゆく夕暮れに、わたりたまひつつ、虫の音を聞きたまふやうにて・・・・・。(鈴虫の巻)

虫の音の聞こえる草むら

女三宮の住む西の対の庭を野辺のように作らせ、そこに虫を放って鳴き声を楽しもうという趣向です。色々な虫の声が聞こえるのを聞きながら源氏は鈴虫(今の松虫のこと)の声が可愛くていいねと女三宮に語り掛けたりしています。
やがて月が出て、源氏は月明かりに琴を弾きます。

10月4日が仲秋の名月でした。今年はひときわ美しかった月。御覧になった方も多いと思います。人工の灯火のなかった時代、月の光は今より何倍も明るく輝き、人々の夜の生活に密着していたことでしょう。

王朝時代、宮中では仲秋の名月の夜は特別な宴会が開かれ、管弦の遊びを楽しむのが恒例でした。その宴が中止となったある年、光源氏の六条院に若い貴公子たちが集い、月を愛で、虫の音に耳を澄まし、管弦の遊びを楽しみました。

仲秋の名月が昇る

今宵は例の御遊びにやあらむと、おしはかりて、兵部卿の宮わたりたまへり。大将の君(夕霧)、殿上人のさるべきなど具して参りたまへれば、こなたにおはしますと、御琴の音を尋ねてやがて参りたまふ。(略)内裏の御前に、今宵は月の宴あるべかりつるを、とまりてさうざうしかりつるに、この院に人々参りたまふと聞き伝へて、これかれ上達部なども参りたまへり。虫の音の定めをしたまふ。(略)「今宵は鈴虫の宴にて明かしてむ」と(源氏は)おぼしのたまふ。(鈴虫の巻)


この後、一行は笛を吹いたりしながら、車を連ねて冷泉院へ行き、宴を続けます。虫の音色の良し悪しを聞き比べたり、月の光のもとで管弦を楽しんだり、なんと優雅な暮らしでしょう。(もっとも、貴族だけでしょうが)
草むらの蛍袋の花

現代人の生活の味気無さを思い知らされます。日本古来の虫が少なくなって、草むらではなく、樹上で鳴く外来種の情緒のない鳴き声ばかり聞こえる秋の夜。さびしいですね。


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