2017年7月1日土曜日

咲き続ける常夏の花

2017.6.30撮影
「常夏」は初夏から秋まで咲き続ける撫子の花の異名です。源氏物語にも両方の名で何十回も登場する花です。昔はそこらの草むらに多く咲いていたようです。
 実際の花を指しているものも、「撫でし子」と掛詞になることからいとしい子供を指して使われているケースも多く見られます。
 最近あまり見ないなと思っていましたが、気を付けてみると、あちこちのお庭の片隅やプランターでひっそり愛らしい花を付けています。
 
 源氏物語に登場する撫子。二つご紹介しましょう。一つは、頭中将の愛人であった夕顔が、中将の正妻から脅迫じみた仕打ちを受け、行く末を悲観して中将に送って来た手紙。撫子の花に結ばれていました。

「(頭中将が)心には忘れずながら、消息などもせで久しくはべりしに、(夕顔は)むげに思ひしをれて、心細かりければ、をさなき者などもありしに、思ひわづらひて、撫子の花を折りておこせたりし」とて涙ぐみたり。「さてその文のことばは」と(源氏が)問ひたまへば、

「いさや、ことなることもなかりきや。
  『山がつの垣ほ荒るともをりをりに
       あはれはかけよ撫子の露』」

              (帚木の巻)

2017.6.29
「私のことは忘れても、子供のことは忘れないで下さいね」といういじらしい手紙です。これを見て、心配した頭中将は彼女の元を訪ねるのですが、夕顔は恨むそぶりも見せず、深刻な様子もなかったことから、しばらく、また訪ねることもなく放置しておいたため、夕顔は子ども共々姿を消してしまったのです。かわいい女の子だったのにと中将は後悔しますが、見つける事はできませんでした。後の玉鬘です。

 もうひとつは、源氏が、恋い焦がれる義母藤壺に送った手紙(直接は送れないので、藤壺にお仕えする命婦の君というそば仕えの女性にあてて送っています)。これも撫子に添えたものです。

2017.6.30
 御前の前栽の、何となくあをみわたれるなかに、常夏のはなやかに咲き出でたるを折らせたまひて、命婦の君のもとに、書きたまふこと多かるべし。
「 よそへつつ見るに心はなぐさまで
        露けさまさるなでしこの花
花にさかなむと思ひたまへしも、かひなき世にはべりければ」とあり。(紅葉の賀の巻)


 ここでも、「なでしこ」は二人の間にできた子によそえられています。藤壺の産んだ若宮の父親は、実は帝ではなく、源氏。けれども、永久にその愛しい子の父であると名乗ることはできません。庭のなでしこを若宮だと思って眺めても、切ない気持ちはますばかりだと苦しい胸の内を藤壺に訴えています。

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