2019年8月1日木曜日

「撫子」のその後

この夏もあちこちに撫子の花が咲きました。

帚木の巻で「撫子」として登場した玉鬘はその後、源氏の君の元に引き取られ、源氏の邸、六条院の[花]として、多くの貴公子たちを惹きつけています。
(玉鬘は、実は頭中将の娘なのですが、世間には、源氏の娘ということにしてあります。)

庭には、美しい撫子の花を多く咲かせ、花々の奥にいる玉鬘を連想させようという源氏の君の心組みです。

撫子は小さいけれど群れて咲きますし、色鮮やかな華やかなものですから、ぱっと明るい玉鬘という女性をイメージさせるには適しています。

御前に、乱れがはしき前栽なども植えさせたまはず、撫子の色をととのへたる、唐の大和の、籬いとなつかしく結ひなして、咲き乱れたる夕ばえいみじく見ゆ。皆立ち寄りて、心のままにも折り取らぬを飽かず思ひつつやすらふ。《常夏の巻》


咲き乱れる撫子を手折ることができない・・・・つまり玉鬘を手に入れることができないのを残念に思いながら、貴公子たちは庭先をうろうろ歩いているのでした。
その中には、実は血のつながる兄弟である、ということを知らない柏木なども混じっています。

美しいと評判の女性玉鬘に憧れ、心を尽くす若者たちの姿を見て、ほくそえむ光源氏は、かなり嫌なおじさんの役を演じています。


2019年7月16日火曜日

晩年の紫の上


厄年の春、重い病の床につき、一時は絶命したかと思われた紫の上でしたが、夏にはなんとか小康状態となりました。

「なんとここまで生き延びたことよ」と庭の蓮の花を見ながら源氏の君と語り合います。

昨日今日かくものおぼえたまふ隙にて、心ことにつくろはれたる遣水、前栽の、うちつけにここちよげなるを見出したまひても、あはれに、今まで経にけるを思ほす。池はいと涼しげにて、蓮の花の咲きわたれるに、葉はいと青やかにて、露きらきらと玉のやうに見えわたるを、・・・


源氏の君は、紫の上が、こうして再び起き上がって語り合えるまでになったことを喜び、涙を浮かべます。

「かくて見たてまつるこそ、夢のここちすれ。いみじくわが身さへ限りとおぼゆるをりのありしはや」と、涙を浮けてのたまへば、(紫の上)みづからもあはれにおぼして、
消えとまるほどやは経べきたまさかに蓮の露のかかるばかりを とのたまふ。《若菜下の巻》 


紫の上は、自分の命が長くはない事を自覚していて
「私の命は、たまたま、蓮の露が消え残っているようなものですから、これからそう長くは生きられそうにもないのですよ」と言います。事実、この後、紫の上は完全に健康を取り戻すことは無く、4年後には亡くなったのでした。

若いころの、華やかで艶やかな紫の上の姿は桜によそえられていますが、病に倒れてからの、透き通るような美しさは、すっくと立つ一輪の蓮の花の姿に通じるものがあると思います。






2019年7月10日水曜日

末摘花は初夏の花



末摘花は紅花とよばれた花の異名です。紅の染料にする花として当時は珍重されていました。

伸びた茎の先端から、花を順に摘むことから、末摘花と呼ばれたようです。花は始め黄色に咲き、次第に真っ赤になってゆきます。

京都ではこの花をみることは難しいと思っていたのですが、植物園にありました。
源氏物語では、常陸宮の遺児の姫君が、この名前で呼ばれています。鼻の先が赤かったことから、光源氏はこのあまり魅力的とは言えない姫君を末摘花と名付け、蔭でからかっています。
彼女は美人でないだけでなく、歌もすぐには返せない鈍重な感じの、とても魅力的とはいえない女性だったのです。
雪の朝、初めて彼女の顔を見た時に、

まづ居丈の高う、を背長に見えたまふに、さればよ、と胸つぶれぬ。うちつぎて、あなかたはと見ゆるものは、御鼻なりけり。ふと目ぞとまる。普賢菩薩の乗物とおぼゆ。あさましう高うのびらかに、先のかたすこし垂りて色づきたること、ことのほかにうたてあり。 《末摘花の巻》


と座高が高く、長い鼻の先が赤いことに幻滅。そして、その後訪ねた時にも、やはりその鼻が気になります。朝帰りする源氏を見送る彼女を振り返ってみると

出でたまふを、見送りて添ひ臥したまへり。口おほひの側目より、なほかの末摘花、いとにほひやかにさし出でたり。見苦しのわざやとおぼさる。

《末摘花の巻 》 



紅花自体はパッと明るい可愛らしい花なのですが、源氏の君は実際の花とは別に、紅花・・・赤い鼻・・・と彼女を呼んだわけです。源氏の君は実際の紅花を見たことはなかったのではないでしょうか。

ちょっとした好き心から関係を持ってしまった常陸宮の姫君ですが、あまりに魅力のない女性だったので、彼女に手を出したことを後悔するのですが、それでも結局、源氏の君は「この人を私が見捨てたら、どんな男も面倒をみようとは思うまい」と生涯お世話したのでした。



2019年7月1日月曜日

桔梗と浮舟ふたたび




桔梗、これほどシンプルな形状の花は他にないような気がします。直線だけでできているような、襞も切れ目もない筒状の花びら。
私はどこか寂し気で地味なこの花が好きーそして、咲いているのを見るといつも、浮舟の面影を思いうかべてしまいます。


桔梗は、万葉時代からある花で、かつては、日本全国どこにでも乱れ咲いていたそうです。ところが、最近は草地が無くなったために、絶滅危惧植物となっているということです。確かに、道端に自生して咲いているのを見かけたことはありません。

源氏物語では、桔梗が、ただ一度だけ登場していることは一昨年このブログで紹介しています。蘇生した浮舟が、老尼たちと静かに暮らす小野の山荘の、庭の様子を描いた場面です。
20178.11のブログ「浮舟の見た桔梗」を御参照下さい)

浮舟は、この山荘で、たまたま訪れた横川の僧都に頼み込んで、尼君たちの留守中に、尼になってしまいます。

男というものと無縁の世界に生きる決意を固めたのです。
二人の男性の間で、心を引き裂かれて、自死を決意。それが叶わなかったと知った時、出家というもうひとつの死を選んだのです。

純粋で一途な、浮舟のような女性も、絶滅危惧種かもしれません。







2019年5月4日土曜日

青紅葉の頃


新緑の美しい季節となりました。
散策にぴったりの頃ですね。


さて、ところで、源氏物語では新緑を愛でるような表現にあまりお目に掛ることがないのに気づきました。なぜかと考えてみると、青葉若葉の美しさはその下を歩いて、木の間越しに空を見上げた時に感じるもの、お部屋からお庭を見ていてもあまり感じないものかもしれません。


楓の花と実

新緑の中でも、青紅葉の美しさは独特で大好きです。源氏物語ではただ一か所、「若楓」が登場しています。



光源氏が庭の新緑を見て、心がざわつき、養女玉鬘に道ならぬ恋を告白してしまう場面です。

雨のうち降りたる名残の、いとものしめやかなる夕つかた、御前の若楓、柏木などの、青やかに茂りあひたるが、何となくここちよげなる空を見いだしたまひて、「和してまた清し」とうち誦じたまうて、まづこの姫君(玉鬘)の御さまの、にほひやかげさをおぼし出でられて、例の忍びやかにわたりたまへり。(略)「かくて見たてまつるは、夢にやとのみ思ひなすを、なほえこそ忍ぶまじけれ。おぼしうとむなよ」とて御手をとらへたまへれば、・・・・《胡蝶の巻》 

楓の花
驚いてわなわなと震える玉鬘に、さすがの源氏も手をにぎり、髪を撫でる以上のことはできませんでした。






2019年4月27日土曜日

第二回木霊する源氏物語公演お礼

多くの皆さまの応援によって、第二回公演を終えることができました。


御来場くださった皆様、蔭で何かと支えて下さった方々、本当にありがとうございました。

今回は、明石の君と六条御息所という、一見似た風貌ながら、全く正反対の性格の持ち主をとりあげて、物語を作ってみました。


また、「六条御息所の物語」では能の『葵上』を意識した舞台づくりを試みて、演劇的な要素を盛り込んでみました。舞台に置いた着物が人物を象徴するという手法です。


まだまだ、研究すべきことは、多くあると改めて感じました。



皆様から、ご批評ご意見を頂ければ幸いです。










2019年4月15日月曜日

間もなく締め切り 朗読会 声と響き~木霊する源氏物語~



声と響き 木霊する源氏物語
朗読と唄で織りなす物語[第二弾]

【第一部 明石の君の物語/第二部 六条御息所の物語】

― 忍耐に忍耐を重ねながらも、なだらかな心を保って最後に幸せを手に入れた明石の君 ―

― 高貴な美しさの裏に隠した、狂おしいばかりの情熱を制御しきれなかった六条御息所 ―

好評であった前回に引き続いて、古典の世界を声の響きのうちに呼び寄せようとする試み第二弾をお届けします。前回と同じく源氏物語の世界を、語りと朗読、唄で構成しています。今回は女君の中から、対照的な存在ともいえるふたり「明石の君」と「六条御息所」をとりあげてみました。



【日時】 2019年4月21日(日)14:00 開演 (13:00 開場/15:30 閉演)

【会場】 京都堀川音楽高等学校 音楽ホール
京都市中京区油小路通御池押油小路町238―1
市営地下鉄東西線 二条城前駅 下車 2番出口 徒歩2分/市バス 堀川御池 下車 徒歩2分
*御池通側の南門(グランド入口)からお入りください。
*駐車場、駐輪場はありません。公共の交通機関をご利用ください。


【共催】 京都市教育委員会

【後援】 古典の日推進委員会
【前売券 販売期限】 2018年12月1日(土)~2019年4月20日(土)まで 
【入場料】 前売券1,500円/当日券2,000円/高校生以下無料/全席自由席

前売券「チケットぴあ」でご購入
(高校生以下の方は、ファックスまたはeメールにてお申し込みください)
*セブン-イレブン、チケットぴあ各店舗でのご購入
(Pコード「490-943」)がお得です。


【個人情報のお取り扱い】 お申し込みに際し、みなさまよりご提供いただきました情報は、個人情報保護法に則り、公演会事務局にて適切に管理いたします。
【チケットのお取り扱い】 チケットのご購入後にキャンセルすることはできません。
【お問い合せ】 岸本久美子 公演会事務局
電話 075-701-0900 eメール kumiko.kishimoto.pro@gmail.com